「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

実感を伴う口コミが減ったことで、大ヒットが生まれない?

GD ヒット商品の理由を探っていくと、その多くは口コミだったりします。どこからともなく始まった口コミが大きくなって大ヒット商品が生まれていく。それは宣伝がきっかけのものもあるのかもしれないんですが、最近で言えば「キャロウェイ」の『初代エピック』がいい例で、今のパワーマーケティングの始まりだと思うんですよね。

長谷部 そうですね。試打した評価が動画でどんどん出るようになったことで、スペックの説明とフィーリングの説明を代弁してくれる人がたくさん出てきています。ただ、自分に合うかどうかを見極めながら見ている人がどれだけいるのか、なんとなく言葉尻だとか結果だとかに吸い込まれてしまう。洗脳じゃないんですけど、自分がやったかのように勘違いしてしまうことがあると思うんですよね。

インプットされる情報は潜在意識に残ってしまうので、そういったものに影響されることもあると思います。それをわかったうえでメーカーが誘導して、試打動画を上げるような戦略をとっているのが今のパワーマーケティングだと思うので。

現在のパワーマーティングの始まりとも思われるのが、2018年のキャロウェイ『初代EPIC』。「2本の柱」を大々的に宣伝し大ヒット商品となった

GD YouTubeが口コミの代わりをしている?

長谷部 今はそうなりつつあります。工房のおじさんたちが「このクラブ良さそうだ」、ゴルフ場で一緒にラウンドする仲間が、「これすごくいいんだよ」、そのような実感のこもった言葉を信用して発生したのが口コミだった思います。

でも最近はコロナの影響もあると思うんですけど、そういった口コミを直接得られる機会が一時期減ってしまった一方で、新製品は出てくるし、ゴルフは継続してやっていく中でSNSとYouTubeによってある種、別の形のコミュニティで口コミが発生するようになりました。

自分と同じ目線とは限らないけれども、「あの人はこういう風に言っているんだったら信頼できる」という情報がまさに取り入れられるようになったと思います。

GD 口コミによってゴルフ界が大きく動いたのは1990年に起こった「カムイ」だと思います。「カムイは飛ぶ」の口コミは、名古屋を中心としたシングルさんが端を発し、全国の工房に飛び火。工房に出入りしているシングルさんがその情報を聞き、全国に飛び火していったことがありました。

最終的には男子プロのレギュラーツアーまでカムイの噂が広がりました。でも、最近は口コミによるヒット商品を聞きません。商品サイクルが早いため、口コミが広がる前にモデルチェンジみたいなことになっているのかな? と思うんですが……。

長谷部 例えば『ステルス』、『Qi10』、『パラダイム』というひとつの名称で走らないことがひとつ考えられます。1ブランドの中に3シリーズ、5シリーズぐらい出てきちゃうと、もう口コミにならないんじゃないですかね。1個1個の商品がたくさんあるから、1つのブランド、1つのカテゴリー、1つのシリーズなのに、3種類以上あるから、どの商品のことを言っているのかが口コミになりづらくなっている環境もあるみたいです。

GD 情報の信憑性の薄さみたいなものもあるかもしれませんね。

長谷部 昔は、「実際に飛んだよ」みたいな実感の伴うコメントが多かったと思います。でも、今は飛ぶらしいよ、良いらしいよっていう、「らしい」の伝播になっています。

フェイクじゃないにしても、本当かどうかはわからないけど、良さそうだっていうだけのザワツキで、それが伝播するようになっているのが今の時代の流れなんじゃないですか。

GD 物の評価には、ある程度時間かかるじゃないですか。でも、それが到達する頃にはもう中古品になっていたりする。

長谷部 そうですね。だから、「今年の新製品が2月に出ました。4月の時点である程度決着がついている」みたいなことをお店の方に言われてしまっていて、これからゴルフシーズンなのに、「いや、もう売れないんですよ」「2月、3月で終わりました」っていうことを言っているんです。

ある一定のアーリアダプターと言われる、とにかく先行で手を出す人たちがその瞬間に終わってしまっていて、あとはしばらく様子見をしているフォロワーの人たちがこの後どうするかという状況の中で、リアルな口コミが生まれてない可能性があります。売り上げのランキングで、ピン『G430マックス』が今一番人気っていうデータにはなっているんですけど、でもそれは売り上げランキングであって口コミとは違う。

本当にいいもの見定める情報がたくさんある中で、自分の選ぶ基準、感性なのか、スペックなのかっていうのをちゃんと見極めないと、その他のブランドとか、ランキング情報に惑わされるのかなって気がしますよね。

GD 2000年代に入ってクラブの製造技術がすごく上がりました。いろんな研究も進んで、数値化もされてきたりして、飛ばないものはなくなったし、難しいアイアンもなくなりました。

クラブとしての性能ってある一定基準みたいなものがあるにしても、 横一列同じですよ、頭1つ飛び出ていますよってものがなくなったもの、大ヒット商品が生まれにくくなっているのかもしれません。そんな時代だからこそ、選ぶ基準っていうのをしっかり見定めてないと、間違ったものを握らされてしまうような気がしますよ。

長谷部 『G430マックス』を例にすれば、「ちょっとスピンが多くなりがちな慣性モーメントの大きなヘッドなのでロフト9度が飛びますよ」っていうことが言われているし、実際にそういう動きがあると。

でも、今までは10度で良かった人たちが今9度を手にする必要がありますか? って言いたいんですよ。10度で合っているのだから、10度の良いドライバーを次見つければいいのに、なんとなく『G430』が使いたくて9度を手にしました。その結果曲がるようになったら、それっていい状態ではないので、そういう選び方もどうなのかなという気はします。

自分が感覚で選ぶ人なのか、スペックで選ぶ人なのかっていうのをちゃんと決めておけば、メーカーのパワーマーケティング、もしくはいろんな口コミと思わしき情報に惑わされることなく、良いもの選び方ができますよね。

2024年売り上げランキングの上位にいるピン『G430』シリーズ。2019年、渋野日向子の全英女子オープン優勝をきっかけに”ピンファン”が急増した

GD メーカーが好き、ブランドが好きっていうのは絶対あるじゃないですかね。でも、ここは優先順位を下げたほうがいい?

長谷部 良いものを選ぶという意味では避けたほうがいいですね。もちろん新製品が大好きで、常に新製品を試したいというマインドの方もいらっしゃるし、そういった人に支えられている市場なので、それを完全に否定するわけじゃない。

でも、それは良いものの選び方をしてなくて、ただの新しいもの好きで、それを試して自分で評価して、それも良かった、悪かったを楽しんでいる人だと思うんです。

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