「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

『SIM2 MAX』と『G400 MAX』が作ったベンチマーク

GD 『SIM2 MAX』の重心距離と重心深度は40ミリちょっとという数値が出ています。これって、余剰重量があるために設計の自由度が高く、設計者が意図して作った数値に見えるんですが。

長谷部 その通りだと思います。なので、同じ兄弟のモデルで比べても、重心距離でいうと、(LS系の)『SIM2』は36.7ミリで、『SIM2 MAX』よりも4ミリぐらい短い。だからコントロールしやすい。ここは意図的にやっているはずです。

GD 『SIM2 MAX-D』は重心距離の短いドローバイアス。

長谷部 そうですね。重心距離を短くしてつかまりやすくしています。

GD そこにあまり苦労を感じてない? 感じずに置くことができている。ヘッド重量は総じて重いんですけど、200グラムちょっとあります。

長谷部 重めのヘッドは「テーラーメイド」の特徴です。スクリューウェイトが2カ所にあるとすれば、そこで軽くすることができるっていうのが頭にあるので、とりあえずアメリカ仕様でこの重量とか、軽くしたい人は軽くすることができるので、195グラムも容易に達成することができます。

GD 自分自身でクラブを仕上げやすいということも考えている?

長谷部 そうですね、そこをやれば重量的には合わせることができます。ただ重量を5グラムずらすことで若干重心には影響を与えますけど、基本的にはそんなに気にすることなく、5グラムぐらいだったら軽くしてもいいと思う。

GD そうすると、余剰重量を生かした重心設計っていうのは『SIM2 MAX』で1つの答えに到達したというように見えるんですけど。

長谷部 そうですね。後から出てくる他社のドライバーも、この40ミリ前後の重心距離と重心深度を模したようなものもたくさん出てきているし、「ピン」はちょっと外れたとこにいますけど、「キャロウェイ」も含めて、この辺を色々模索しています。1つのベンチマークになったのは間違いないと思います

GD そこから後継モデルが出なかったっていうのは、「テーラーメイド」が違う方向に行ってしまったと。余剰重量をまたさらに生もうとして、チタンフェースからカーボンフェースにしたことによって、余剰重量ってまた増えていますよね。

長谷部 フェースまで軽くしてしまえっていうのを勢いでやってしまったようにしか見えないんです。黒いヘッドを白いヘッドで提案したのと同じように革新的なことをやろうとしたわけですよね。

それで生まれる相乗効果は色々あったと思うし、飛距離を伸ばした人も中にはいると思うんですけど、いかんせんカーボン素材の反発性能とかそういったところには課題があったはずなので、トータルで言って『SIM2』と『ステルス』のどっち良かったのかっていう議論になった時には、しばらく『SIM2』が併売されていた、追加で製造して売っていたという噂もあるぐらい『SIM2』の人気が落ちなかったことを考えると、「テーラーメイド」はその辺のことを1番わかっているんじゃないですかね。

『SIM2』のパフォーマンスと『ステルス』のカーボンフェース性能はどっちが評価が良かったのか。でも『ステルス2』、そして『Qi10』にカーボンフェースを引き続き続けていますので、次どうするのかなっていうのは興味ありますね。

GD 1つのベンチマークとして『SIM2』が達成しました。そのあとドライバーの状況ってちょっと変わったと思うんですよ。大慣性モーメントを達成するためにストレッチ構造になり、重心距離、重心深度が多少動いたと思います。

長谷部 さらに重心深度を深くするモデルが出てきて、深いほうがいいのではないか、 良さそうだ。実際にピンが売れているということになれば、「ピン」をターゲットにストレッチを進めたのが「キャロウェイ」であり、「テーラーメイド」であり、その他のメーカーが追随しようとしているということだと思います。

けっして悪い話ではないんですけど、「ピン」が目指して獲得してきたターゲットが2~3割だとします。その限られたゴルファーに対してその他のメーカーが同じ方向を向いて5割のマーケットを作ろうとした。

しかし、そうじゃない5割のゴルファーがストレッチの深重心ドライバーを拒否するとなると、2~3割以上のお客様がいないんだとしたらクラブは市場で余りますよね。それで評価はされませんよねっていうのが今のように見えます。

GD 「ピン」の大慣性モーメントの考え方と、追随した他メーカーの大慣性モーメントは数値上、同じように見えたとしても何かが違うから、「ピン」は評価され、他のところは評価されないというのがあるんじゃないですか。これって何が勝敗を分けていると思いますか?

長谷部 それについては前にも話しましたけど、『G400 MAX』で、すでに重心深度47ミリを達成していたっていうのが先じてあります。「ピン」には圧倒的な経験値があって、次どうすればいいかって地道に積み重ねてきてるとこに対して、追っかけたメーカーが45ミリを目指して作りましたと言っても、 他のスペックとのバランスが取れなかったり、クラブとしての設定が悪かったり、それこそライ角とかロフト、フェースアングル、そういったとこの設定もマッチしなければ「ピン」には追いつかない部分があったと思います。

大慣性モーメント時代をリードする「ピン G430 MAX」。長年積み重ねてきた実績と改良によってD-1グランプリでもベスト8まで勝ち進んだ

GD ただ単に慣性モーメントが大きいから良いとはならない。

長谷部 つかまりはフェースプログレッションとライ角も関係するので、そこまでちゃんと見越してライバルメーカーが作っていれば、愚直にモノマネをすれば近いものができたかもしれないんですけど、そこまでみんなやらないし、意匠権利や各メーカーのプライドもありますし。

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