「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

アンチ大慣性モーメント派が『タイトリスト GT』に流れる?

GD 8月23日に「タイトリスト GT」が発売されてショップ界隈で賑わっていますけど、大慣性モーメントを売りにしてきた春先と夏以降で潮目が変わるのかどうかって言ったらどんな感じに見えますか。

長谷部 言い方悪いですけど、460ccが出始めた頃と同じような現象に見えてしまっていて、結局「デカいから良いぞ」っていうのに近い言葉が「テンケイ(10K)だから良いぞ」、「大慣性モーメントならいいぞ」というのはすごく乱暴だなとは思います。重心の深いものが悪いわけではないんですけど、熟成されないまま、もしくは全包囲網で大慣性モーメントがいいわけでもないことをわかっていながら、全員に合いますみたいな伝わり方はちょっと乱暴だったと思います。

合わない人が何人か出てくる中で、半分ぐらいが合わないとすれば、その人たちはたぶん今までの重心距離、もしくは重心の深さのものを求めてくるところに、たまたまかもしれませんが『GT』がハマるということになると、『Qi10 MAX』が合わなかった、『パラダイム Ai SMOKE MAX』など合わなかった人は一気に『GT』にシフトするかもしれません。

そういった人たちには『GT2』、『GT3』が合うと思うので、その辺で潮目が変わるというか、大慣性モーメント中心のセールストークは一旦ここで終わるような気がします。

D-1グランプリで快進撃を見せた『タイトリスト GT』シリーズ。大慣性モーメント時代の終わりを告げるきっかけとなるのか?

GD 『SIM2』で1つの重心設計というところを極めてきた。もう1つ「ピン」が大慣性モーメントを極めてきた。2つの異なる進化の路線があったように感じるんですが、そこに後ろから「タイトリスト」が観察しながら、「ピン」がやっていること、「テーラーメイド」がやっていることを観察して、ズバッときたような感じにも見える。

「キャロウェイ」は立ち位置すると、テーラーメイド側にも寄っているし、ピン側にも寄っていて、どっちからもいいものをとろうとしている。でもさらにその後方にいたタイトリストが今回『GT』で仕掛けてきたというように見えてきます。

長谷部 誰しもがやさしいクラブを欲しいと思っているはずです。ドライバーってやっぱ難しいクラブなので、その中で振りやすいとか曲がらないとか、飛ぶっていういろんな要素を求めた時のベストバランスはどれ?って常に模索しているのはどのメーカーもそうだと思うんですよね。

いろんなことを考えた時に、「テーラーメイド」と「キャロウェイ」はどうも翻弄されているような気がします。自分たちのやるべきことは、わかっていたはずなのに、「ピン」を羨ましく思ってしまったために、そっちを目指した結果自分たちの立ち位置がボヤけてしまっているような……。特に「キャロウェイ」はモデル数が多すぎるなと思います。

GD 『SIM2』が出てきた時の、「キャロウェイ」の対抗は、『エピック スピード』だったり、まだまだ「テーラーメイド」と「キャロウェイ」っていうのは、性能面でもバチバチやっていました。

それがいつの間にか、「ピン」が台頭してきて出て「テーラーメイド」と「キャロウェイ」が、連合は組んでないにしても、どちらもピンを見てクラブを作るようになったっていうのが現状のような?

長谷部 「MAX(マックス)」という名称を使いつつも、そんなにマックスにしてなかったから、本当にマックスにしたのはここ2、3年のこと。それによって何が起きたか。

マーケティング上、普通は王者の戦略で強いメーカーが弱者潰しをすれば弱者が潰れるはずなのに、「ピン」が戦いをしてないから影響を受けなかったということだと思うんです。むしろ独自路線をずっと走っているから、それ以上のこともしてないです。

LS(ロースピンモデル)とかオプションも作りますよ。だけど、メインが重ヘッドで重心が深いほうだから、立ち位置が違うんですよね。コロナ禍もあっていろんな状況があったと思うんですけど、結果的には日本で言えば渋野日向子プロフィーバーが火を付けたことは間違いないし、そういうきっかけでブレークした結果、ある一定の流行を作ってしまった。

GD 「テーラーメイド」と「キャロウェイ」が2強だとして、2強が「ピン」に挑んだらあえなく突き返されている。

長谷部 そういうことです。だから片手間にやるなよって「ピン」から突き返されたようなものだったんじゃないですかね。要はメインはこのモデルだけど、いやマックスもありますよっていう提案の仕方をされたユーザーからすれば、いやサブモデルじゃんってなるし、「ピン」はマックスがメインです、LSもありますけど、この立ち位置の違いが明確になったと思います。

GD どっちメインでやっていたっていうことですか。

長谷部 そうですね。だから「ピン」のLSも少し売れているのはその相乗効果だと思うんですけど、「ピン」のLSは「テーラーメイド」のLSとか比べるとやっぱり及ばない部分がたくさんあると思う。でも今はLS対決の議論ってされないじゃないですか。

GD ここで戦ってないから?

長谷部 そう議論されないんですよ。だからそこが面白いです。 じゃあ「テーラーメイド」のMAXと「ピン」のMAX、どっちがいいんだってなった、「ピン」のMAXですねって言われてしまうと、勝敗としては負けているように見えるのかな。

GD それ以外のメーカーっていうのは、「タイトリスト」が今回隙間狙ったかわかりませんが、すっと入ってきて。だけど、じゃあその次に入ってくるメーカーが見えていたりします?

長谷部 ないです。正直ないですよね。アメリカのメーカーで「コブラ」が頑張っている。コブラのビジネスが堅調だっていう話もありますけれども、それはアメリカの中で言えば、ちょっと癖の強いクラブを出し続けて、コブラユーザーとか、「テーラーメイド」や「キャロウェイ」ではない位置づけでビジネスを回しているということですよね。

でも、日本のメーカーにはコブラ的なものとして存在しうるかっていうと、自分たちのアイデンティティーを見失ってるのか、私たちはこれが1番強みですっていうことを打ち出せずに、追随した流れで結果的にはラインナップや機能も似ている。でも日本人が得意なブラッシュアップは上手です。そんな風に見えますよね。

GD 日本のメーカーって、LSブームが起きるとLSに向かって、MAXブームがあればMAXブームに向かって、後追いをしているから、これをやっている限りトップグループの先に出ることってない。

長谷部 ないですよね。そういう意味で言うと、古い話ですけど「プロギア」の『Duo』みたいにまったく違う目線で、めちゃめちゃ面白いものを先に作って話題になりました。それぐらい違う軸で作って提案しない限り、今のアメリカメーカーのPGAツアーを含めたパワーマーケティングには叶わない。20年前くらいまでは、新製品は進化を続けていて新しい素材や機能説明だけでその魅力を伝えられた時代がありました。

ゴルフは娯楽でありスポーツなのでその道具を持つ喜びとか魅力も大切だと思うんです。1990年代プロモデルが全盛で売れていた頃は打てるかどうか別にして、憧れや魅力ある製品に飛びつくゴルファーが多くいたんですが、弾道診断測定が定着してゴルファー自らが現実を知ることで、各メーカーの機能性や魅力の伝え方は、ブランド戦略を柱とする活動に変わって来ました。

普遍性を貫く「タイトリスト」や「ピン」、変革を追求し提供し続ける「テーラーメイド」、「キャロウェイ」どちらも、“ブランドの一貫性という魅力”を上手に伝えるブランドだと思います。その攻勢からジリジリとシェアを落としている今の日本のメーカーの戦略は岐路に立っていると思うんですよね。

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