軟鉄鍛造のストロングロフトが増えている理由
GD 「ピン」が軟鉄鍛造の『ブループリント』を出しました。今年追加モデルとして、ちょっとやさしい『ブループリントS』を出してきました。「ピン」と言えば『200シリーズ』が主力商品だと思うのですが、『i230』と『ブループリントS』、どっちがいいの? って迷う人も多いと思うんです。
「ピン」と言えば、鋳造アイアンだったものが、軟鉄のアイアンを作り始めた。春先のゴルフフェアでも「キャロウェイ」の『Xフォージド』をはじめ、”軟鉄鍛造のストロングロフト系”というのが、目立ってきていると思うんですけど、そこについてはどうですかね。
長谷部 そこなんですよね。誰が使うのかわからないと思われるよう組み合わせだったはずのものが人気になるっていうのがちょっと不思議で、年配の方だけが使っているわけじゃなくて、若いプレイヤーもたくさん使っていることを考えると、素材としては軟鉄鍛造が見直されている。
それに加えて、“やさしいキャビティ”というジャンルが少なくなっています。操作性の高い飛びアイアンというジャンルがひとつ出来はじめている。操作性のいいアイアンを作るためには軟鉄鍛造が最適だった。中空にしても異素材を組み合わせるにしてもボディは軟鉄というところが、なんだかんだ言っても作りやすいし、仕上げもメッキを必要とするので綺麗になるうえ、ユーザーに対しても調整できますよっていうのが最終的にはセールストークになっているのかなって気はしますけど。
GD 軟鉄の素材の部分の話をすると、S20CとS25Cが出てくるんですけど、この違いは何ですか?
長谷部 これは鉄に含まれる炭素量が何パーセントかです。0.25パーセント、0.30パーセントというJIS規格のものだと思うんですけど、その名称が一般的な表記にも使われています。
GD 一般的なアイアンで使われるのはどっちの素材なんですか?
長谷部 一説には20Cがやわらかい、25Cがちょっと硬いというように言われていて、汎用性の高いのは25Cだと言われています。工業用品なんかだともっと炭素が高い35Cというものが多く使われているんですけど、特殊なゴルフのヘッドなので25Cとか20Cが使われることが多いですね。これはあくまで中央値の話で、0.20パーセント前後、交差のある中で炭素量も含まれている素材が使われていう話になりますね。
GD 打感が良いと言われる「ミズノ」はどっちですか?
長谷部 ミズノさんは「ずっと20Cを使っています」って言っているし、地クラブメーカーの姫路系も確か20Cを使っているはずです。その代わりひとつ問題なのが、ちゃんとしたネックの熱処理をしないと、打っていくうちにロフトが変わりやすいというデメリットがあるのが20Cですね。
アスリート志向のゴルファーに人気のある『JPX923フォージド』。4番から7番まではクロモリ鍛造。8番~GWは軟鉄鍛造S25CM(ミズノは独自性を強調するため“M”を付けている)が使用されている
GD フォージド系のアイアンの中でもストロングロフトのものには、フェース面だけはマレージング鋼を使っているものが増えたと思います。20C、25Cと比べるとマレージング鋼のほうが硬い?
長谷部 硬いです。硬いので薄くできて反発性も高くなるので、初速を上げることができます。打感が犠牲になっていたところに対して、例えば「テーラーメイド」は発泡剤を入れています。他のメーカーは樹脂を入れたり、ゴムみたいなものを注入することで打感をなんとかしようとしています。ここに中空構造の軟鉄系の進化があります。
GD メーカーはそういうふうにいろんなことをこうやっていますが、実際ユーザーからすると、何がなんだかわかんなくなっているのが現状だと思うんですけど。
長谷部 そうですね。キャビティ構造で何か樹脂が見えていたという時代から考えると、ヘッド内部の工夫であったり、肉厚になるので、ほとんどのユーザーはそれを認識せずに使っていることが多いと思います。
アイアンを選ぶ理由のひとつになってないかもしれないですね。構造がこうだから買うんじゃなくて、結果がいいから買う、打感がいいから買う。
GD 打感を求めるために軟鉄鍛造を選ぶ人がいます。スペック的にステンレス素材の鋳造でも同じようなものがあったとしたら、どのように考えればいいですか。もうそれはただ単に打感だけなんですか?
長谷部 いや、難しい。昔、実験的に軟鉄鋳造とステンレス鋳造でまったく同じ形状のものを作って打ち比べしたときに、プロでもその違いがわかんなかったっていうぐらい素材の違いってわかりにくいんですよね、同じ形状にしちゃうと。
だけど、この素材だから作れる形状とか構造っていうのがあるとすると、そこでの機能の違いがない限りは素材選びってあんまり意味がないのかな。鋳造だから深いキャビティができたり、大きなソールができたりとか、そういうメリットが鋳造にはあります。
GD ステンレスの鋳造のブレードがないっていうのは、そういうことですか?
長谷部 そういうことです。あえて作る意味がない。
GD でも逆に軟鉄鍛造の超深重心のキャビティがないっていうのもそう?
長谷部 そうです。フェースが薄く作れないので、高機能なものができないから、フルキャビティの大きなヘッドは意味がないよねってことになります。