高い球筋で全英に5回も勝ったアップライトスウィング
さて本題の“長続きするスウィング”の本題に戻ろう。
ワトソンの球筋はデビューした頃から高いので有名だった。
アップライトスウィングで、高いトップから体重を踵に乗せて、体を鋭く回転させる。このボディターンの鋭さは1980年代において時の帝王ニクラスより速いといわれた。コイル状にした体の軸を不動のまま鋭く回転させるのだから、球筋が高くなるのは当然。
しかし高い球筋は風に弱いというのが定説だ。風は全英オープンの華である。風を制さなければ全英には勝てないのは事実。それには低い球筋が有利といわれてきた。
それがなぜ高い球筋のワトソンが5回も全英を制したのだろうか ?
結論を先にいうと、高い球でもクラブフェースの真っ芯で打たれた球は決して風には弱くないのである。つまり真っ芯で打たれた球は高くあろうとそんなに風に左右されないということなのだ。たしかにカットに打たれたこすり球、ヒールで打たれた高い球などは弱いから風に吹き流される。風はミスを増幅してしまう。風が左から吹いていてスライスを打てば、ブーメランのような大スライスになってしまうだろう。
そういう意味でいえば、風は生半可な技術では太刀打ちできないといえよう。風は確かな技術を持つ者とそうでない者を明確に峻別する。
話はそれたが、ワトソンはアップライトなスポット打法(いつもスイートスポットでボールをヒットする)だからこそ風を制したといえよう。
このアップライトスウィングをワトソンは持ち続けている。これは師匠であったバイロン・ネルソンの助言に負うことが大きかったはずだ。ネルソンはツアー11連勝の大記録を持ち(これは現在でも破られていない)ビューティフルスウィンガーとして一世を風靡した。
ネルソンと知り合ったのは1974年。ウイングドフットで行われた全米オープン。3日目まで首位だったワトソンは最終日大叩きして敗れ去り、ロッカールームでうなだれていた。そこへネルソンはやってきて「ヤングマン、ちょっとあちこち修正すれば、これからいくらでもメジャーに勝てるよ」と声をかけたのだ。
最後に「私はダラス(引退して牧場に住んでいた)にいるから、いつでも訪ねてきたまえ」と結んだ。
早速、ワトソンはネルソン宅へ訪ねていって、その年にウェスタンオープンに勝ってしまう。それからは毎年オフになるとネルソン詣でを続け、教えを乞うたのである。
その教えのなかには「今のアップライトスウィングを大事にしなさい」というものがあった。
アップライトスウィングの最大の長所は、スウィング円弧がタテに垂直により近くなるためインパクト・ゾーンが長くなるというところにある。インパクト・ゾーンでフェースをスクエアに保つ時間が長くなるため、飛距離も出て正確性も高まるということだ。
現在のワトソンのスウィングも若い頃よりはトップがコンパクトになり、フットワークも抑えるようになったが、依然としてアップライトスウィングを保ち続けている。トップでは右ひじを開けて、トップの位置は頭の頂点より2グリップほど高い。普通は加齢するとトップはだんだんと低くなってくる。筋力も衰えて、高いトップを支えたり切り返しで手が体から離れて下りてきがちになり、カット打ちになってしまう。アマチュアの典型でもある。
しかしワトソンは切り返しから手が垂直方向に、体の近いところに下りてきて、蓄えたパワーをインパクトで一気にリリースして使いきり、この結果として左手がきれいに伸びる。
問題はこの切り返しで手をいかに垂直へ下ろせるか。以前、全英観戦記を書いていた坂田信弘プロはこういっていた。
「手を垂直に下ろす意識は右ひじを右腹にドーンとぶつけていく感じですよ。トップでの“出前持ち”はいけない。ワトソンのようにトップで右ひじは空けて、それを右腹にぶつけていく。これで手は垂直に下ろせれば、ワトソンのようなアップライトスウィングの形は真似することはできます」と。
あとワトソンの特徴でいうなら、パワーを溜め込むコッキングの使い方が上げられる。アドレスからテークバックして腰の高さまではコックを使わず(スウィング弧が大きくなる)そこから徐々にコックキングしてトップでのシャフトは水平。
このコッキングとアップライト・スポット打法で若い世代のパワーと対抗できているのである。
それも淡々と、そしてピュアに。
ゴルフダイジェスト特別編集委員/古川正則