新帝王といわれ、一時代を築いたトム・ワトソンに関するこのレポートは2010年に執筆した。この年の前年(2009年)に、59歳のトム・ワトソンは6度目の全英オープン優勝を目指し、プレーオフを戦った。結果的には敗れはしたものの、世界中から賞賛の声が止まなかった年である。その当時の、つまり60歳のワトソンの全体像に迫った。いま読んで懐かしいと思われる人が一人でもいてくれれば幸いである。※『書斎のゴルフ』に掲載された全10回の記事を筆者(特別編集委員・古川正則)本人が加筆修正した。

脱筋力の無理のないスウィングへ

画像: 体の動きの確認をするトム・ワトソン(撮影/岡沢裕行)

体の動きの確認をするトム・ワトソン(撮影/岡沢裕行)

また本筋のスウィング編に戻って、今度はワトソンの現在のスウィングが若いときとどう違う印象かを探ってみよう。

ワトソンのクラブ選択、つまり距離感のよさは定評がある。風の計算も含めて距離をジャッジしたら、アップライト・スポット打法で、高い球でピンの真上から落としてくる。あとはパットが入るかどうか、単純といえば単純、機械的といえば機械的。ワトソンのゲーム運びが合理的といわれる半面、面白みがないといわれた所以でもあった。

しかしこの機械的スウィングがチョーク病から、ワトソンを救ったことも確かである。

ワトソンはデビューしてから、この“シビレ”チョーク病によって最終日くずれ、何度勝利から見放されたことだろうか。ワトソンはこのチョーク病を克服するために、ある時期から心身ともに機械的にやろうと決心したはずである。つまりロボットのようにスウィングすることで、心の動揺を抑え、チョーク病を克服しようとしたのである。

ーーさて、60歳の現在、あのダイナミックなスウィングは若いときとどういう風にかわってきているだろうか?

川田太三氏は若いときはTV解説の取材で、現在は全米オープンのレェフリーとして、ワトソンを見続けている。今年はペブルビーチでの全米オープン初日、石川遼とまわるワトソンに競技委員としてついた。

昨年は全英オープンで惜敗したあとの全米シニアの2日目につき、ワトソンを“堪能”したという。

「ワトソンと石川遼のスウィングを比較していて、あっ、こりゃワトソンの今昔物語だと思いました。遼は体の若く柔らかにしなる筋肉、関節を使ってのボディターン。これからいくらでも成長する可能性のスウィングです。しかしフレキシシビリティがあるということは、いつも一定なスウィングができにくいということでもあるのです。筋肉が必要以上に伸びたり、間接が柔らかいがゆえに何ミリかゆるんだり……。若いときのワトソンが全くそうでしたね」と川田氏は語る。

続けて「そして当のワトソンですが、若いときのフレキシビリティを俳して、しかし原型だけはしっかりと残した、つまりいつも一定な動きができる形を固めて幹の太いスウィングになっていると思いました。この感じをシャフトに例えるなら、遼がカーボングラファイトで、ワトソンはスチールといったような印象です。カーボンはその性能を引き出せれば出すほど飛距離も出るが、スチールは距離は出ずとも安定性に秀でてる。筋力を使うことを抑えて、無理ない体の動きをする。大体遼の動きなどは誰にでもできるものではありません。この安定性こそアマに参考になる考え方じゃないでしょうか」と川田氏。

ゴルフダイジェスト特別編集委員/古川正則

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