名手たちがゴルフについて残した言葉は数しれず。小社のウェブでは、連載企画『名手の言葉』を
500回以上掲載したが、週刊ゴルフダイジェスト3月11日号では今回、その中からとっておきの特選集をお届け。寒くてラウンドを控えているという人、コースが積雪クローズ中でウズウズしている人……文字でゴルフを堪能して。「みんゴル」では2回に分けてご紹介。【2回中2回目】
 
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青木・尾崎・中嶋のAON編

画像: 青木・尾崎・中嶋のAON編

「ゴルフは心・技・体ではなく、体・技・心の順だ」(尾崎将司)

尾崎が出現するまでプロゴルファーは“職人”の世界だった。しかし、プロ野球界から身を転じた尾崎は強靭(きょうじん)な肉体を駆使して、当時のパーシモンで300ヤードをかっ飛ばし、「ジャンボ」と命名され、ゴルフ人気に火をつけた。日本ゴルフ界の革命児誕生だった。

 
「体がまずなければ、高度なスキル(技術)も獲得することもできない。技術的に未熟なやつがいくら精神的に強くても、トーナメントに勝つことなどできはしない。まずゴルフをやる土台の“体”がな
ければ大成はできないんだよ」と、尾崎はデビュー直後から言い続けた。パワーと高度なスキルを競うスポーツプレーヤーとしてのアイデンティティを確立した言葉と言えるだろう。

「しゃーあんめー」(青木功)

「しゃーあんめー」とは「しょうがない」という意味の、青木が生まれ育った千葉県我孫子の方言。
ここぞというときのパット、どうしても入れたい、しかしオーバーして3パットも怖い。だが、そんな優柔不断な考えでは勝負に勝つことはできない。入れると決断したらカップの向こう側目がけて打つことだ。もしそれが外れても命までは取られやしない。「しゃーあんめー!」。いわば開き直りの決断。だから青木のパットの球足は生きていた。直線的なラインを作って、カップの向こう側にガツンと当たって入る乾坤一擲(けんこんいってき)のパットはこの開き直りにあったのだ。
 
イチかバチかのショットでもそうだ。もし失敗しても、「しゃーあんめー」と悔いをいつまでも引きずらない。これはタイガー・ウッズの「10秒ルール」にも似ている。10秒歩くうちにミスの悔いを断ち切り、次の場面に頭を切り換えるわけだ。ゴルフはミスをするものである。そしてそのミスを悔やんでいても次のナイスショットは生まれるべくもない。青木の見事な思考術が、「しゃーあんめー」という言葉に結実している。

「林の上にもOBがある」(青木)

風の強い日、地上ではそんなに吹いていなくても、林の木のてっぺんを越えると、それは強い風が吹いているものなのだ。だから、木の上に上がった球は強風に持っていかれて、OBにさえなりかねないということ。問題はここからだ。だからこそ、球筋を低くコントロールする技を磨けと青木は言いたいわけだ。
 
青木の様々なテクニックは、日本の歴代のプロの中でも出色と言われている。米ツアーに参加した頃は手首を使ったアプローチ、パットは通用しないと言われたが、どっこいそんな風評は吹き飛ばし、1980年全米オープンでは帝王ニクラスと死闘を演じ、100ヤード以内なら世界一の“オリエンタルマジック”と絶賛された。

画像: 1973年のジャンボ尾崎(左)と青木功(右)

1973年のジャンボ尾崎(左)と青木功(右)

「スランプはすべて技術力でカバーできる。23歳のとき、打撃の神様から教わった。以来、僕の座右の銘になっている」(中嶋常幸)

石川遼の名前を冠したテレビ番組に中嶋がゲストとして出演したとき、石川がスランプについて質問し、中嶋が答えた。勢いだけで成績を残していく時期を過ぎると、必ず停滞──これをスランプというかどうかは別だが──が訪れる。中嶋も23歳のとき、この停滞に陥った。この時期に、野球で現役時代、打撃の神様と言われた川上哲治からこの言葉を聞いたのだという。
 
「スランプに陥ったら気分転換したらいいとか言われるけど、そんな甘いものではない。練習をやってやってやり抜き、技術を高めていけば、これだけやったのだからと自信もでき、吹っ切れてメンタル面にも好影響を及ぼす。つまり、心・技・体で技を追っていけば心も体もついてくるということを言いたかったのでしょう」とは川上の子息・貴光氏。

ゴルフライフが豊かになる編

「真っすぐにボールが行ったとき。それは偶然だ」(ベン・ホーガン)

ボールを自在に操るホーガンでさえ、真っすぐなボールは偶然でしか打てないと言った。つまり、曲がるボールは高度なスキルを持っていれば打つことはできるが、真っすぐな球は計算できるものではなく、それは偶然によってしかもたらされないということなのだ。真っ芯をとらえるのは、1ラウンドに1回ぐらいしかないとも述べている。
 
同伴競技者がピンを狙うショットでも、真っすぐなボールには一いち瞥べつすらしなかったが、明らかにドローとかフェードとか、曲げる球でピンに絡んだときだけ一言「グッド!」とつぶやいたという。

画像: 全米オープン4回、マスターズ2回、全米プロ1回、全英オープン1回の優勝歴を持つ(写真は1953年全英オープン優勝時のもの)

全米オープン4回、マスターズ2回、全米プロ1回、全英オープン1回の優勝歴を持つ(写真は1953年全英オープン優勝時のもの)

「自分の属する組織や家庭から離れ“無所属の時間”を持つ」(城山三郎(作家))

組織と人間を描き、経済小説の開拓者だった城山は、ゴルフにおいても一家言持っていた。デフレ時代に入り、元気と余裕をなくしたサラリーマンに、仕事にも家庭にも属さない“無所属の時間”をゴルフや趣味に充て、あくせくしない生活を見つけるよう提案した。「医者に勧められ、ゴルフを始めたのは幸運だった。腕前は万年ブービーメーカーだったが、無所属の静かな時間をゴルフで得ることができたからだ」と城山は語っている。
 
無所属の時間では人に迷惑をかけることにも厳しかった。「昭和の妖怪」の異名の岸信介が城山の前で何回もパットを繰り返すのに、「オイ、遅いぞ!」と怒鳴ったことがある。ゴルフには社会的地位、肩書きは関係ない。なぜならそこは開放された空間なのだから、というわけだ。

「あの世へ行く途中でふと下界に目をやると、快晴微風の下で皆さんが白球と戯れている。これは悔しいから、めったなことでは死ねません」(吉川英治(作家))

吉川がゴルフを始めたのは、還暦も近い昭和20年代半ば。その頃の不文律により、吉川も練習場で一人前になってから、コースに出た。しかも再婚した愛妻、文子夫人と常に一緒だった。そのゴルフぶりは「生涯一書生」というように、スコアにこだわらず、四季の草木を眺めながら淡々としたプレーだったという。文壇ゴルフでの優勝回数もそんなに多くなく、あるときの優勝スコアは90だったというからハンディキャップは推して知るべし。夫人のほうが実力は上だったそうな。

「ゴルフスタイルのほとんどはゴルフを始めた最初の1週間で作られる」(ハリー・バードン)

ゴルフに限らず、何事も最初が肝心ということだ。最初に正しい基本を身につけておくと上達は早い。逆に我流で悪いスウィングを覚えると、その後熱心に練習すればするほど、俗にいう“下手を固
める”という事態になってしまう。
 
人間の脳というのは、最初の出来事、体験を記憶に強く刻み付けるらしい。初心者よ、ゆめゆめ素人教え魔の歯牙にかからぬよう!

「ゴルフは3回も楽しめるゲームだ。コースに行くまで、プレー中、プレー後である。ただし内容は、期待、絶望、後悔の順に変化する」(アーサー・バルフォア(英国の元宰相))

ゴルフの著作もあり、首相を務めながらハンディを縮めた御仁のせりふはゴルファー心理へのエスプリと諧謔(かいぎゃく)に富んでいてお見事。また「男にとって、不可解なものがこの世に3つある。それは形而上学と、ゴルフと、女心だ」とも言っている。 古今東西、時代は移っても女心とゴルフは男にとって不思議で不可解なものであるらしい。

「勝負に関する限りは、舌を噛み切っても口実や言い訳は唇にのせてくれ給うな」(赤星六郎(ゴルフコース設計家))

日本ゴルフ界の黎明期(れいめいき)に一本の道筋をつけたのが兄の赤星四郎と、この六郎である。アメリカ留学から帰国した兄弟は、日本オープン創設に道を開き、六郎は第1回大会に優勝している。六郎が最も忌み嫌ったのが、アリバイ(口実)とエクスキューズだった。
 
「日本人は病人ばかりなのか」と皮肉ったこともある。頭が痛いとか、腰が痛いとか、仕事が忙しいなど、自分の不成績に対する口実や言い訳ばかりに腐心するゴルファーが、あまりに多かったのである。「このような不愉快な言葉を何度聞いたことか。真のスポーツマンは絶対にこのようなアリバイを拒否する。たとえコンディションが悪くても、いかなる事情があるにせよ、ひとたび試合に出たら、ベストを尽くし、勝っておごらず、負けて恥じず、虚心坦懐(きょしんたんかい)、一切の弁解をしない者こそ、真のスポーツマンシップと言えよう」

「私が最も尊敬するゴルファーはエジプトのスフィンクスだ。2000年になんなんとする間、バンカーにいながら、泣き言ひとつ言わんじゃないか!」(デビッド・ロイド・ジョージ(英国の元宰)

皮肉と諧謔(かいぎゃく)に優れた文言を残した英国の宰相、ロイド・ジョージ。政治家としての歴史的評価は定まっていないようだが、諧謔に富んだジョークは一流と評価されている。もう一人のゴルフ好きの宰相、ウィンストン・チャーチルはナチスドイツの野望を砕き、故国を救った英雄としていまも崇拝されているが、ゴルフでの名言は残しているだろうか?
 
「ゴルフが道連れの人生は決して退屈することがない」とゴルフを礼賛している。また「コースでモタモタするやつは、何をやっても失敗する」とスロープレーヤーをなじってもいるが、皮肉と諧謔にかけてはロイド・ジョージのほうが面白い。

※週刊ゴルフダイジェスト3月11日「名言集」より一部抜粋

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