コース設計の基本「レダン」とは
コースデザインにおいて最も模倣されたのが「レダン」と呼ばれるホールだ。レダンに類したホールは日本でも多くのコースで見つけることができる。
ではそのレダンホールとはどのようなものか。
スコットランドの古都エジンバラから車で1時間程の距離に、通称ミュアフィールドと呼ばれるコースがある。正式にはジ・オラナブルカンパニー・オブ・エジンバラゴルファーズで1891年設立。コースを所有する会員制倶楽部として最も古い歴史を誇る。この通称ミュアフィールドの前を通り過ぎて198号線を6キロほど進むとノースベリックGCに辿り着く。

ノースベリックGCの15番。ティーイングエリアから左斜めに伸びるグリーンが特徴
西コースの15番ホールがレダンと呼ばれるパー3ホールで、ティーイングエリアからは打ち上げになり、グリーン左側から北海からの強い風が吹き抜ける。
構えてグリーン方向を視認すると、手前に小さ目のバンカーが2つあることが分かる。打ち上げのためグリーンエリアの構造が分かりにくく、しかも風が強いため手にする番手には悩んでしまう。距離が190ヤードもあるからだ。
多くのゴルファーは風と距離でグリーンには届かない。起伏のあるフェアウェイから2打目を打つことになるが、グリーン左側には大きく深いバンカーがあり、グリーン自体は左奥に長く傾斜は左から右へと流れている。

写真A/バンカーの砂が崩れないようにされた枕木によじ上っているのはベン・セイヤー
1900年代に写された写真Aを見ると、当時バンカーはかなり深く大きくグリーン面を確認することができない。そのため、バンカーの砂が崩れないようにされた枕木によじ上ることになったのだろう。ちなみにこの人物はベン・セイヤーというプロだ。
バーナード(ベン)・セイヤーは1856年エジンバラ生まれのプロゴルファーで全英オープンのみ出場したという。現在もベンセイヤーブランドのクラブは生産されていて、現存している最古のクラブメーカーといわれている。
レダンホールに話を戻そう。
この難ホールをプレーしたゴルファーから話を聞いたことがある。最初の印象は「打ち上げでグリーン面が確認できない、そして海(左方向)から強い風が吹き抜けて距離も190ヤードとかなりある」というものだった。
そのため多くのゴルファーはグリーンに届かず複雑なライから難しいアプローチを強いられてしまう。もしくは手前にある小さなバンカーに入れてしまうこともあり、そこからの脱出は距離感がつかめずそれなりに困難が付きまとう。
スコットランド出身でノースベリックGCを子供のころからプレーをしているコースデザイナー&シェイパーのベンジャミン・ウォレンさんによると、ベストな攻略方法は「ドライバーでグリーンをオーバーして打つこと。そこからは打ち上げのアプローチになることから極端なピンオーバーはなく、上手くすればパーは可能だ」という。別のゴルファーにも聞いたが「正解はドライバーでグリーンをオーバーすること。グリーンオーバーからのアプローチは易しい」だった。

あまりに有名なオーガスタの12番は「逆レダン」(PHOTO/Blue Sky Photos)
レダンを模したホールは多くあるが、マスターズが開催されるオーガスタナショナルGCの12番池越えのパー3もレダンの思想を採り入れたホールだ。ティーイングエリアから見ると。クリークが斜めに横切り、幅のない横長のグリーン奥に大き目のバンカー、クリーク側にもバンカーがあり、ホール上空に吹く風を読みにくく、攻めにくいホールでもある。距離は短いが、トム・ワイスコフはここで12打を費やしてしまっている。
日本では、数年前にリニューアルした太平洋C八千代コースの最終18番ホール(118ヤード/パー3)はレダンを取り入れたデザインとなっている。
世界の多くのコースに模倣されているノースベリックGCの15番ホールは、いつもプレーしているあなたのコースにもあるかも知れない。グリーンが斜めにされバンカーなどのトラップで錯覚させる仕組みがされていればそのホールは“レダン”といえるだろう。
文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中