
2011年に逝去してから15年たったいまでもゴルフ界で話題となるセベ・バレステロス。彼こそアイドルだった(写真は86年マスターズ)
ビッグ5は全員1957年、58年生まれで、そろってマスターズを制覇した輝かしい経歴を持つ。彼らは皆ゴルフエリートではなく、ささやかなきっかけから世界的な成功へと歩みを進めた選手たちだ。遠征中に浴槽で洗濯をし、へこんだ練習ボールで球を打ち、ゴルフを続けるために必死だった時代を経てメジャーチャンピオンに上りつめたのだ。
セベとランガーは少年時代キャディをしたのがきっかけでキャリアをスタートさせている。
兄たちの影響で「家計を助けるため」にキャディを始めたセベは、自分で稼いだお金でオレンジジュースを買って飲むのがささやかな幸せだったという。
ランガーもまた、5歳年上の兄がある日、ポケットにドイツマルク(紙幣)を入れて家に帰ってきたときにキャディというアルバイトがあるのを知った。
「私は当時9歳で、兄のポケットの中にあるお金を見て『どこで稼いだの?』と聞きました。家が貧しく、そんな大金を見たことがなかったんです。兄はキャディで稼いだというのですが、私はキャディが何かまったく知らなかった。すると兄がこう話してくれたんです。『5マイル先にゴルフ場があって、そこでバッグを運ぶ仕事があるんだ』。思わず『僕も行ってもいい?』と聞きました」
最初は「ちょっと若すぎる」といわれたが、数週間後に「自転車でコースに行きはじめてバッグを任されました。偶然にもその人がクラブチャンピオンだったのです」。
ハンディ2のチャンプがランガーを気に入り「僕の専属キャディになってくれ」といわれた。「すごく楽しかったけどそれはお金が稼げるから。ゴルフをすることじゃありませんでした」。
貧しい家庭に育った2人は奇しくもキャディとしてゴルフ人生をスタートさせた。当初ランガーはゴルフに興味がなかったというがセベは違った。自ら山で拾ってきた木を削ってクラブを手作りしコース沿いの浜辺で球を打った。
そのセベが1979年に全英オープンで優勝。翌80年にマスターズで勝ってから欧州全盛の波が訪れた。
だがランガーは同世代の5人のなかで「自分は成功する可能性が一番低いと思っていた」という。しかし80年のダンロップマスターズで欧州ツアー初優勝を飾る2週間前に転機が訪れた。

若い日のB・ランガー(左)とS・バレステロス(写真はともに82年全英オープン)
ランガーが練習グリーンで球を転がしているとセベがやってきて「パターを見せて欲しい」といわれた。ところがクラブを渡すと3球打っただけでセベはパターを放り投げ、去ろうとした。
ランガーは訳が分からずセベを呼び止め、「ちょっと待って。僕のパターをどう思うの?」と聞いた。すると「本当に知りたいの?」とセベ。「もちろんだよ、君を尊敬しているから」。
「本当に知りたいのならいわせてもらうよ。そのパターは軽すぎるしロフトも足りない。基本的にダメだ」と切り捨てた。
その言葉を聞いてランガーはプロショップに直行。そして片隅にあった中古のパターに目を止め店主に「5分だけ試打させて」と頼んだ。打ってみると自分のパターに形状は似ているけれど重く、ロフトもあった。「これが使いたい」と交渉すると、それは85歳のお婆さんが使っていたもので、つい最近ゴルフを辞めたから「5ポンドで売ってあげる」といわれ即購入した。
するとその週の試合で3位、翌週2位、そして次の週にダンロップマスターズで初優勝していた。
改めてランガーはいう。「セベ、本当にありがとう!」と。





