32年パラリンピック採用へ、立ちはだかる「クラス分け」の壁
国際ゴルフ連盟(IGF)のホームページを見ると、ゴルフ競技は2032年のブリスベン大会からの参加を目指しており、「特に注目すべき取り組みの1つは、障害のあるゴルフ選手の地位向上を図り、国際パラリンピック委員会(IPC)の基準に完全に準拠させ、パラリンピックへの参加に向けて準備を進めることです」とあります。この取り組みの主な目標は、「IPCが定める国際基準に沿うよう分類プロセスを改良し、一貫性と公平性を向上させる」「障害者向けゴルフ競技クラスを評価・調整し、包括的かつ効果的な構成になっていることを確認する」こと。やはり“クラス分け(分類プロセス)”が、大きな問題として横たわっているのです。
R&Aのゴルフ開発担当ディレクター、ケビン・バーカー氏は、「パラリンピックに入ることは個人的な答えとしては『難しい』です。スポーツクラス、女性ゴルファー、いろいろな人がプレーを楽しめる環境を整えないといけないからです」。しかし、だからこそ、さらにさまざまな面から世界にアプローチすることが重要だと語ります。
「我々は『8段階パスウェイ』というプログラムを作り、IGFに提出しました」
これは、EDGAがR&Aの支援を受け、様々なゴルフの団体や施設が、障害者向けにインクルーシブな環境を構築し、段階的に持続的にプログラムを強化するための8つのステップを示したガイドラインです。
「そして、健康面などからも世界にアプローチしていくことが重要なのです」
今回行われたセミナーでは、ゴルフが健康面に寄与する研究データが発表されていました。こちらは今後また機会を作ってご紹介したいと思います。
欧州障害者ゴルフ協会(EDGA)会長のトニー・ベネット氏はこう語ります。
「我々の活動と連動して世の中にいい作用を起こせると信じています。いろいろなレベルの選手がいますが、ゴルフは健康維持のために推奨される中程度の身体活動。この辺ももっと伝えていきたい。パラリンピックについては、32年のブリスベン五輪での採用に向けて今までと同様申請しています。24年のパリ五輪よりは確率が高くなっている感じはします。このG4Dオープンはもちろん、1年で急速にインターナショナル大会も増えていますし、参加国も増えています。もちろん、アジアやアフリカなど競技人口が少ない地域には力を入れていかないといけません。日本のようにきちんとした障害者の大会を開いている国はないのです」

9つのスポーツクラス、4つのティーマークを使って行われる本大会。アメリカで開催されるもう1つの“メジャー”大会「アダプティブオープン」(USGA主催)は別のやり方を採用。足並みをそろえることは難しく……
そして、女性ゴルファーを増やすことも課題だと言います。
「実は、ゴルフを始めるにあたり『ゴルフウェアを持っていない』『着替える場所がない』ことなどがハードルになったりする。意外と繊細なことがファーストステップを阻むこともある。だからまずはこれらを提供できるようにすることを考えたりしています」
今回参加した選手80人中女子選手は14人でした。健常者ゴルファーの人口比率を見ても、女性ゴルファーは少ないのですから当然といえば当然なのですが……。
しかし、R&Aでもこの秋、初の女性キャプテンが誕生します。ゴルフ界にも確実に時代の波は押し寄せているのだと思います。
「ダイバーシティ、インクルーシブと、世の中が変化してきたなか、R&Aもこの26年間で大きく変わってきました。ゴルフ人口を増やすことにつなげていくため、いろいろなカテゴリーの方を受け入れて、もっとゴルフを身近に感じられる世界を作っていかなければいけません」(バーカー氏)
ゴルフの普及を支える財団の仕組み
資金面では、どのような動きをしているのでしょうか。
「アメリカのゴルフやアメフトなどは資金回収できるエンターテインメントとなっています。R&Aにお金が有り余っているわけではありませんが、3つのプロのメジャー大会(全英オープン、全英女子オープン、全英シニアオープン)に対して大きなスポンサーがついています。だからこそ、G4Dオープンのような大会ができるのも事実です。また、フィランソロピーで集めるお金は大きい。もともとは企業からだけ出資を募っていましたが、個人からも募るようになったことも大きいです。財団を作ってイベントを運営していますし、チームを作ってお金を集めているのです」

全英オープンなどと同様の仕様で看板は作られる。時計にはロレックスのロゴマークがあるのも同じ。本大会が“メジャー大会”だということが伝わってくる
今回、多様な選手たちに話を聞いて感じたことは、ゴルフを続ける理由に、自己研鑽、勝利のためということはもちろん、自分のプレーを通して世界中の人々に「何か」を伝えたいという明確な意志があることです。
女子総合で優勝したドイツのジェニファー・スレーガ(STANDING3)は、一般的に低身長症と呼ばれる軟骨無形成症として生まれました。彼女はこの疾患について人々の理解を深めるための啓発活動にも取り組んでいるそうです。ゴルフが誰にとっても身体的にも精神的にも非常に有益であることを証明しようとしているのです。
「障害のある人が健常者から孤立してしまう理由の一つは、健常者が障害のある人に障害について尋ねられないと思っているからだと思います。もしかしたら、直接的すぎるとか、個人的すぎると感じているのかもしれません。だからその“障壁”は人為的なものかもしれない。私たち障害のある人がもっとオープンになって、『こんにちは、ジェニーです。ちょっと変な目で私を見ていましたけど、何か質問はありますか?』と気軽に言えばいいんです」
ジェニファーは、あらゆる障害を持つ人々にこうアドバイスもしています。
「ただ、自分の人生を生きなさい。私たちはそれを変えることはできない。受け入れて、強く生きるしかない。自分を信じなさい。結局のところ、それが私たち人間を人間たらしめているものなのだから」

理学療法士の父を持つジェニファーは17歳になる前にはドイツのナショナルチームにも選出された実力の持ち主。経営大学卒の才女でとても知性的。その言葉は、多くの人々の心に届きます
イングランド国籍ですがパキスタン出身のワカス・シャー(STANDING3)は、幼少時のケガに起因して左腕が不自由です。ゴルフを始めてまだ5年ですが、母国、パキスタンと自分の村のために“誇り”を持って戦ったと語っていました。
「国や村の人たちにゴルフが素晴らしいスポーツだと知ってほしい。ゴルフは人生のあらゆる苦難を忘れさせ、精神的にリラックスさせてくれます。この競技は、自分を阻むものは何もないのだと自分自身に照明する機会を与えてくれるのです」
カメルーン出身のプロゴルファー、イッサ・ヌラレブ・A・アマン(STANDING1)は、病気により両足下肢は義足、両手の指の多くを失うという「複合障害」ながら、最後まで優勝争いをしました。
「体の不自由な他の人にも、ゴルフを通して人生を切り開き、楽しむことができると示したい」

レッスンプロとしても活動するイッサ。自身の著書には、人生において多くの苦難を乗り越え、大好きなゴルフを諦めなかった「工夫」が詰まっているそうです
また、様々な国の団体の方々も、自国での障害者ゴルフの普及のため、学びと交流を真剣に行っていました。メキシコの方は、抱える問題は多いけれど、多くの国の動きを参考にしていきたいと前向きに語っていました。インドでは今年初めて、10人と少人数ではあれ視覚障害者の大会を開催するそう。身体障害者も多くいるとのこと。障害者ゴルフをもっと広げていきたいという思いを語っていました。
世界中で生まれる変化の芽。日本はアジアのリーダーとして、共に水を与え、育てていかねばならないのだと強く感じました。


