1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在は日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄が、ラウンド中に話題になる「ゴルフの奥深い知識」を綴るコラム。第78回目は、ゴルフ場でよく見かける「モグラの盛り土」にまつわるルールの解説と生態の雑学、そして1970年代の国内トーナメントで起きたエピソードについて。

モグラの生態と「ブラキストン線」――実は北海道にはモグラがいない!

画像: 国内男子ツアーでも小鹿がバンカー近くまで来ていたこともある(撮影/岡沢裕行)

国内男子ツアーでも小鹿がバンカー近くまで来ていたこともある(撮影/岡沢裕行)

ゴルフ場には実にさまざまな小動物、昆虫などが生息している。それを捕食する動物や鳥類もいる。アフリカの草原だけではなくゴルフ場内でも食物連鎖はしっかりと行われているのだ。当たり前だが、ごく普通の健全な自然界の営みである。

そんな小動物のなかにモグラがいる。モグラを実際に見たゴルファーはあまりいないと思われるが、体長12~16センチ、体重48~127グラムの小さな動物だ。

本州にはアズマモグラが生息しており、静岡県・長野県・石川県以北から下北半島にかけての地域を中心に分布している。関西地方にはコウベモグラが生息分布している。北海道にはモグラは生息していない。これは北海道と本州の間に、津軽海峡を境界とする「ブラキストン線(生物分布の境界線)」が存在するからだ。そのため、北海道にはモグラがいないだけでなく、本州でお馴染みのイノシシ、ツキノワグマ、ニホンザル、ニホンカモシカなども生息していない。

モグラの好物はミミズや昆虫で、地中を掘り進み食べ物を捕食している。一日の大半を食料確保のため動き回り、8時間周期で活動と就寝を1日3回繰り返している。わずか半日ほど食料にありつけないと餓死してしまうほどの大食漢なのだ。

ゴルフ場でプレーをしていると、ラフなどで土が盛り上がっているのを見たことがあるゴルファーは多いだろう。それはモグラが食べ物を探して地中を掘り進んだ跡だ。このような場所にボールが転がり盛り土に乗ってしまい、そのまま打つとミスショットになってしまう。モグラが作った盛り土は「異常なコース状態からの救済」だからルールでは無罰で救済を受けることができる(規則16.1)。

画像: コースで稀に見かける「モグラ塚」

コースで稀に見かける「モグラ塚」

体験談としてだが、70年代のプロトーナメントを取材しているとき「モグラの穴」と競技委員にアピールする選手が多かったような気がする。競技委員が駆け付け「モグラの穴」と判定すると選手は救済を受けることができ、ボールをドロップして競技は続行された。ルール上では何も問題のない救済上のよくあるシーンのひとつだ。

実際に自分でプレーをしているときにもモグラの穴らしき盛り土にボールが接していることがあり、同伴プレーヤーに「モグラの土」とアピールして無罰で拾い上げドロップしプレーを続けていた。

あるトーナメントの取材でのこと。トーナメント会場は北海道のコースだった。洋芝のフェアウェイ、白樺や針葉樹林の美しい名コースだった。

あるプロのボールは転がりラフに。そこは裸地風でなんとなく土が盛り上がっていた。だが本州のゴルフ場でよく見かける「モグラの穴」とは違っているような気がした。競技委員がカートに乗ってやってきた。しばらく検分をしたのち、競技委員は「モグラの穴」という判定を下した。選手はドロップして無事にプレーを続行。優勝を争っていた選手ではなかったが1打差で賞金額は変化することから救済を受けられるか、受けられないかでは大きな差がある。

画像: 昨年仙台で開催された「明治安田レディス」では、クマの出没によって無観客開催となったことも記憶に新しい

昨年仙台で開催された「明治安田レディス」では、クマの出没によって無観客開催となったことも記憶に新しい

プレスルームに戻ると他社のカメラマンが「北海道にはモグラはいない」と教えてくれた。「じゃあ、あの判定は」となったが、競技委員が「モグラの穴」と断言したことはもう覆らない。

70年代は今よりもずっとずっとのどかだった、ということにしておこう。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中。

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