4月14日閉幕したマスターズはタイガー・ウッズの復活優勝として幕を閉じた。数々の怪我を乗り越えてきたタイガーがマスターズで手にしたものとは? 海外取材歴20年以上、タイガーをよく知るゴルフライターが「空白の11年」と奇跡の復活について記した。

「スポーツ史上最高のカムバック」に至るまで

ついにこの日がやってきた! 世界中の誰もが待ち望んでいた彼のメジャー優勝は、今は亡き父アールさんの前で97年、涙の初メジャー制覇を遂げた想い出の地・オーガスタで達成。これで、マスターズ5勝、メジャー15勝、ツアー通算81勝を達成だ。意外にもこれまで制覇したメジャー14勝の歴史にはなかった、初の逆転優勝での勝利。早朝からワイドショーやニュースなど各局この話題が取り上げられ、スポーツ史上で最もすばらしい復活劇の一つであることは間違いないだろう。

「正直言って、夢みたいだ。95年にアマチュアとして初めてここにきてプレーし、97年には優勝。それから22年、こうして再び優勝することができ、すべてが今日につながっていた。この優勝は僕と家族にとって大きな意味があるし、決して忘れられない日となるだろう」

画像: 数々の怪我を乗り越え、完全復活をしたタイガー(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

数々の怪我を乗り越え、完全復活をしたタイガー(写真は2019年のマスターズ 撮影/姉崎正)

腰の手術を受け、リハビリに励んでいたのは今から2年前。タイガーの言うように、歩くことも難しく、痛み止めを飲みながら、治療に専念する日々が続いた。医師の指示に従って、パターやアプローチなど少しづつ練習はしていたものの、本人も「以前のようなレベルで試合に出て、優勝争いができるかどうかはわからない」状況だった。

「数年前は歩くことも、座ったり、横たわることもできなかった。何もできなかったんだ。それが幸い、腰の手術がうまくいって、普通の生活が送れるようになった。そして突然スウィングすることもできると気づいた。体は昔の若い頃のものとは違うが、まだ技術はある。過去のメジャー14勝はいつも単独首位か首位タイで最終日を迎えていたが、こうして逆転優勝できたことは、おそらく過去最大の勝利のひとつだろう」

昨年、ツアー復帰戦のファーマーズインシュランスで23位タイに入り、バルスパー選手権で2位タイ、アーノルド・パーマー招待で5位タイに入ると、全英オープン6位タイ、全米プロ2位など、メジャーでも戦えるレベルにまで復活してきた。

そして9月のフェデックスカップ・ファイナルではトップ30入りを果たし、最終戦のツアー選手権で2013年以来5年ぶりの優勝。この勝利でタイガーは「自分はまだ試合で勝てる」と確信した。そしてその自信を胸にマスターズで戦い、ついに14年ぶりにマスターズを制覇。11年ぶりのメジャー優勝を果たした。

誰もが二クラスのメジャー記録をあっさり塗り替えると信じた。が……

タイガーがメジャー優勝を最後に遂げたのは、ヒザを負傷し、痛みをこらえながら、ロッコ・メディエイトとのプレーオフを戦い抜いて優勝した08年の全米オープン。あの時私は、カリフォルニアの爽やかな青空のもと、長女のサムを抱きかかえた元妻エリンさんが、タイガーをハグで祝福していたシーンをそばで見ていた。

眩しいくらい幸せそうで、絵に描いたような幸せな家庭がそこにはあった。当時は誰もが、ジャック・ニクラスのメジャー18勝の記録など、あっという間に抜き去り、あと100年以上は誰も記録を塗り替えることのないくらい、圧倒的な勝利数を挙げ続けるだろうと予想していたと思う。

画像: マスターズは14年ぶりの勝利、メジャーでの勝利は2008年以来11年ぶりとなった(撮影/岩井基剛)

マスターズは14年ぶりの勝利、メジャーでの勝利は2008年以来11年ぶりとなった(撮影/岩井基剛)

だが、現実にはその後、不倫が発覚しエリン夫人とは離婚。私生活のトラブルが引き金となって、一気にタイガーは人生の谷底を見ることになる。2015年のファーマーズインシュランスオープンで見た、タイガーのあの痛ましい姿は今でも忘れられない。

練習場でショートアイアンを打っていても、まともにまっすぐ打つことができず、アプローチもシャンクの連発。思わず周囲に居合わせたパット・ペレツやビリー・ホーシェルが彼の打席に歩み寄り、手振り身振りを交えながら、打ち方を教えていた。「今のタイガーなら、勝てる自信がある」……プロだけでなく、アマチュアでもそう思えるほど、当時のタイガーはボロボロだった。

あれほど他を凌駕し世界王者の座に君臨していたタイガーが、彼のプライドもボロボロになりそうなほど、ひどい姿を晒して練習していたのは、今からたった4年前のことである。

何度も繰り返されるケガと手術に見舞われる日々も、彼のツアー人生をメチャメチャにした。メジャーどころか、通常のツアー優勝さえも不可能なのではないか? と思われたほどだ。

ゴルフファンだけでなく、おそらくタイガー自身も、この空白の11年間は予想できなかったのではないかと思う。ゲーリー・プレーヤーやアーノルド・パーマーにも「タイガーは再び優勝できると思うか? メジャーで勝てるか?」と質問したことがあったが、彼らの答えは「メジャーはNO」だった。

ファンへのサイン、若手との交流……苦難を越えて人間的にも成長

しかし昨年、ツアー選手権で優勝し、ツアー通算80勝目を達成した彼は、一気に自信を取り戻す。今年に入ってショットの打ち分けも以前のように少しづつできるようになった。パッティングに関しては、以前のようなツアーでも1.2位を誇る数値からは程遠いが、最近練習ラウンドをよく一緒にするジャスティン・トーマスのショートゲームコーチであるマット・キレンの指導のおかげで、今回も長いパットや繊細なパットが良く決まっていたと思う。

「最もつらいのは、以前のように練習ができないということだ。背中が痛くなるから、長時間練習することはできないし、全ての練習をひとつひとつすることはできない。その中のいくつかをピックアップして練習しないといけないんだ」

43歳になり、加齢による体の変化や衰えについて言及することが多くなっているタイガーだが、シャフトを軽量化したり、以前は使ったことのなかった「カチャカチャドライバー」などをトライするようになり、クラブを滅多に変えない彼が、最近では最先端のテクノロジーも取り入れる柔軟性が生まれた。

画像: 以前のような練習はできないが、それをギアの進化などで補う柔軟性が生まれた(撮影/吉田洋一郎)

以前のような練習はできないが、それをギアの進化などで補う柔軟性が生まれた(撮影/吉田洋一郎)

また、柔軟性という意味では、人間関係においても、以前に比べるとジャスティン・トーマスやブライソン・デシャンボーといった若手とも友人のように付き合うようになった。以前は、マーク・オメーラやフレッド・カプルス、デービス・ラブⅢら年配の選手たちにかわいがられていたタイガーの印象がガラッと変わってきたことは確かだ。

そして最近では、以前よりもきちんとファンたちにサインをするようになり、私も現場で会うと、笑顔で挨拶してくれる。こないだは、自ら手を差し出し、ガッツリと握手をしてくれた。つい最近では、マスターズの大会前日に行われた「全米記者協会の授賞式」で彼とは接触があったが、試合直前とはいえピリピリした様子もなく、笑顔で挨拶してくれた。以前の、人を寄せ付けない怖いタイガーとは違ってきたのである。これも、サムとチャーリーという二人の子供の父親となり、空白の11年間でいろいろなことを経験したことが大きいと思う。いろいろな人間に出会うことでタイガー自身が人間的に成長した証と言えよう。

来月にはベスページ・ブラックでの全米プロ、6月にはペブルビーチでの全米オープンが開催される。いずれもタイガーが優勝したことのある得意なコースだ。メジャーでも勝てる! という自信を胸に、今度はジャック・ニクラスの持つメジャー18勝の記録更新に向け、一気に加速してほしい。

HONMA

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