「すれ違った時、ハーマンの“圧”は凄かった」中島啓太
──時間が経った今、大会を振り返って、いかがですか?
中島 初日はいいスタートが切れて、いい流れを作りながら終盤を迎えることができました。リンクスはラッキーとアンラッキーがいつ来るかわからないと思いプレーしていたので、何があっても基本、平常心を保ち、バーディが来ても、ポットバンカーに入っても顔色を変えずにできたのかなって思えた初日でした。最後18番のボギーも気にすることなく2日目に入れて、最初のホールのバーディにつながったと思います。
──その18番を含めて、2日目は上がり3ホールが厳しかった。
中島 15番でバーディを取って2オーバーになったんですが、16番はもともと難しいパー4。ティーショットの止まった場所がバンカー入り口付近の左足下がりで、レイアップ気味に打ったので、このホールのボギーは仕方なかった。
──次の17番は新しいパー3。
中島 距離は短いですけど、ティーがスタンドに囲まれて風が読みにくく、グリーン面がまったく見えないので、そこがすごく難しいパー3でした。
──初日はいいショットでバーディでしたが、2日目は?
中島 風向きは事前の天気予報やスタンド上の旗を参考に、正面に近いアゲンストだと判断して打ちました。パー以下のスコアが必要でしたので、左サイドのピンを攻めた結果、左に飛んでしまった。風の読みは合っていましたが、技術が足りなかったです。
──技術が足りなかった?
中島 あの17番に関してはグリーンセンター狙いなら10球打ったら5球は乗せる自信はありましたが、そこにピン位置や、自分が置かれた状況、スコアなど、そういった要素が加わったなかでの技術力です。
──そして18番、どういう気持ちで打ったのでしょう?
中島 バーディが必要でドライバー以外の選択肢はなかったので、ドライバーでフェアウェイに打ってバーディチャンスを作る組み立てでした。ショット自体はよくて思ったラインへ打ったのですが、結果、ポットバンカーに入って悔しかったです。
──イメージ通りに打ったのにバンカーに入ってしまった……。
中島 あのバンカーに向かって強いボールを打つことに集中し、実際にそれができた。風のタイミングなど不運もありましたが、もうちょっと自分に技術があったら左のバンカーのもっと左からフェード打ったり、右のOBを怖がらずに攻められたはず。
──技術課題が生まれた?
中島 本当にそう思います。加えて、今、振り返ると優勝したハーマン選手、練習場や練習グリーン、トレーニングジムですれ違うというか、頻繁に一緒になることが多かったんです。そのシーンを思い出すと、内容が濃いというか、他の選手よりも浮いている感じでした。優勝した後だから、余計にそう感じるのかもしれませんが。
──浮いている感じ?
中島 すごく自分の世界観の中に入り込んで、ウォーミングアップや練習をしているなと感じました。今思い出しても、その時の‟圧”を感じます。勝つ人の準備ってああなのかなって。準備への集中力や試合にかける想いを、もっと強めたいと思っています。偶然ですが、大会前や大会中、彼(ハーマン)のそのシーンに触れられたのは勉強になりました。
──熱量と平常心のバランスが難しいかもしれないですね?
中島 トップ選手は気持ちが入り込んで、テンションもハイになって、集中力も高めて、ゾーンに近い状況まで行ったうえで落ち着いた状態に入っています。ステージというか次元が全然違うので、すべてを上げていかないと。
──これからについて。
中島 来シーズンどこでプレーするのか、今は未定ですが、選択肢を増やすには賞金ランク1位はもちろん、上位にいることが大事。ゴルフは好調なので、それをキープしながら戦っていきたいなって思っています。
「あの風は大きな経験。ドローヒッターなりの工夫が必要」金谷拓実
4回目の出場となる金谷拓実は、ロイヤル・リバプールについて「今までで一番戦略性があって、すごくいいコースだなと。いろんなプレーができて面白いけど、難しい……」と答えた。
リンクスのコースは嫌いではない。「全米プロのコースなんかはイメージが出ないんです(笑)。圧倒されるようなリンクス感ではなかった。でも、ティーショットを刻むホールもあるし、そのセカンドは少し長い番手で打つことになる。グリーンは結構小さいからきちんとポイントに打てないと難しいアプローチが残ってしまいます」
初日は73で66位タイ。「最初の16ホールはよかった。バーディチャンスも多く作っていたし。結果1つしか取れませんでしたけど。今年は(国内外で)優勝もできて自信を持って臨んだのがよかった」。しかし、初日の17番をボギー、18番をダボとし、歯車は狂い始める。2日目は80で予選落ち。
「実力です」と金谷。「実は最近、金曜日が怖いというか……海外にいくと、予選を通るかどうかで全然違う。もちろん自分のプレーには集中してはいますが、中途半端なプレーをしてしまうと難しいコースではバタバタいってしまいます」。試合後、自身のインスタグラムに「弱さと向き合いまた強くなれるようがんばります」と書いた金谷。
「(予選通過は)プロになって一番大事なところ。プレッシャーも優勝争いとは別の部分で感じるし、そこで自分のプレーができない弱さがあって……だから足りないものも見えない。でもこういう経験がまた練習しようと思わせてくれるんです。リンクスは風がキー。僕はドローヒッターなので、右からの風に乗せてしまうと横に跳ねるバウンドが大きくなる。もっと風にぶつけたりしないと。アゲンストではテンポが速くなって曲げることも多かった。でも、こういう悔しい思いをするからより工夫しようと思うんです」
ここからは国内がメインだ。「賞金王を取れば欧州ツアー出場の資格もできるので、ステップを踏める。やっぱりレベルの高い厳しい環境に身を置かないと成長しない。来年に向けてしっかり力を蓄えて結果も出し、くじけずにやっていきます」
最後に出た「くじけずに」は、金谷の武器でもある。
「パーで上がる技術と“本番強さ”を作って再挑戦」蟬川泰果
初の海外メジャー出場が全英だった蟬川泰果の第一声は「めちゃくちゃ難しかったです」
リンクスも初体験だった。「砲台グリーンで左右が落ちとって、ポットバンカーがあって。距離はそんなに長くはないんけど刻むことも多くて、パー4でも200~210ヤード残る。その精度が難しかった」
飛ばし屋の蟬川。ティーショットも、「ダメでしたね。1日目は、2回ポットバンカーに入った。フェアウェイに置くことがすごく大事だと思いました。風は、日本とあまり変わらんと思ったら20~30ヤードショートしたり、思う以上に上空では強く吹いたり舞ってるんかなと。何よりパーで上がる技術が全然足りなかったし、パー5のチャンスホールでしっかり取れないのも課題。そこを克服して、パッティングの距離感さえできれば、もっといいスコアで回れたはず。でも、苦戦したコースでまた、いいスコアで回ったら気持ちいいやろうなと思います」。結果は77・75での予選落ち。
しかし、冷静に自己分析する蟬川に悲壮感はない。リンクスは課題を浮き彫りにしてくれる。「パットはずっと悩んでいたけど全英でも収穫があった。リズムが速くなっているのに気づけた。前から課題のショートゲームも、転がしをもっと使えたらいいなと。PWや9Iを持ってファーストバウンドがくわれる、くわれないというのを意識して寄せる必要があることがわかりましたから」
課題を練習し、自分の引き出しにするつもりだ。初のメジャーには、「見たことないくらいギャラリーが入って、歓声もすごくたくさんで。これがメジャーなんや、と感じましたね」
魅せるプレーを目指す蟬川。「結果をどんどん出すことは今年僕にとって一番大事なんですけど、やっぱり海外で活躍する選手になってこそ人気は高まっていくはず。今回結果を出せんかったけど、また頑張ろうという気持ちだけはあります」。ここから日本で複数回優勝と賞金王を目指す。その先に夢の4大メジャー制覇がある。
「現状の僕の成績を見て、誰もが無理やろなと思うでしょうけど、それを成し遂げたい。もっと“本番強さ”を作って、成功体験を繰り返していけばどんどんよくなってくると思う。比嘉さんみたいに欧州に出られるなら積極的にトライしたいです」。夢への一歩を踏み出した。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年8月15日号より(PHOTO/Tadashi Anezaki)