大分県にある全ゴルフ場21コースが、医療機器を装備した救急医療用ヘリコプターの着陸地点の設定を完了したという。きっかけとなったのは一昨年、大分県の臼杵(うすき)カントリークラブで起きた事故だった。
同クラブの支配人、漆間政治氏の話を要約すると……。元々、心臓に持病があったお客様がプレー中に気分が悪くなり、クラブハウスへ戻ってきたので急いで119番通報し、救急車を手配。救急車が到着し、車内で処置を行ったものの回復が見込めず、ドクターヘリを要請。ゴルフ場内に着陸し病院に搬送されたが、その方は亡くなってしまった。
この件を契機に、地元消防署と、県内で唯一ドクターヘリを配備する大分大学医学部附属病院高度救命救急センター、臼杵市内のコスモス病院などが、「ほかのゴルフ場にもドクターヘリの着陸地点を設定して、増やしてはどうか」と提案。昨年8月、大分県ゴルフ場協会と、大分県ゴルフ場支配人会の合同例会で提案趣旨を説明して、各ゴルフ場の賛同を得た。
ちなみにゴルフ場へのドクターヘリ着陸地点の設定は、全国都道府県で大分県が2例目。最初は山梨県。山梨県では2018年に県内の21コース(現在は37コースまで増加)に設定を完了している。ところで、ゴルフ場での着陸地点は、どのような条件で設定されるのだろうか?
広大な芝生の広場を持つゴルフ場は、実は着陸地点として最高の条件がそろっているという。学校など土のグラウンドと違って着陸時に砂ぼこりが舞うことがないからだ。ヘリコプターの羽回転は猛烈な風を地上にもたらすため、グラウンドなどの場合はあらかじめ散水しておく必要がある。砂が舞ってしまうと搬送作業に支障をきたすのだ。
「平坦なところでないと着陸できないので、事前にこちらで調べ、消防署がコースの現場を見て決定しました」(漆間氏)。18ホールの中からラフに1カ所、フェアウェイに4カ所をを選定。ヘリ側とゴルフ場が把握さえしていれば済むため、着陸地点を示す標識などは必要なし。整備費用は発生しないが、ヘリの総重量は3トン前後とあって芝生には相当の負荷がかかりそうだが、「人命最優先」とゴルフ場側は歯牙にもかけずに準備は進んだ。同クラブではすでに救急搬送訓練も実施している。
臼杵市消防本部の隊員に加えて同クラブ従業員4名が参加し、連絡・提携を確認し合った。緊急時のドクターヘリマニュアルを作成し、全ゴルフ場で共有する。この取り組み、ぜひ全国に波及してほしい。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年8月15日号より