自己紹介が始まった。「ゴルフ雑誌の編集者をしています…」
頭の片隅ある30年前の大学の講義室。扉を開けると、この記憶がよみがえってきた。部屋に入ると、すでに8割方の新入生たちが集まっていた。
パッと見たところ、若いイケメン男子が多くいて、私と同じ歳くらいの女性も数人、スーツを着た男性もいる。車椅子の女性、盲導犬を連れた男性もいる。皆、どんな目的を持って、今ここにいるのだろうか。
ひと通りのオリエンテーションが終わり、自己紹介の時間が始まった。
予想通り、「リハビリテーション」を仕事にする理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の方が多い。ほかには、障害者雇用施設の方、大学職員、中学校の先生、外務省の職員……などさまざまな職種の面々。リハビリテーションに関する職業の間口の広さがよくわかる。
そのなかで、もちろん私は異色だ。
「ゴルフ雑誌の編集者をしています」と言った時点で、一瞬「なぜ?」という怪訝そうな顔をした方もいた気がする。この反応を予想していたので間髪入れず、「障害者ゴルファーの取材を通して、リハビリテーションに興味を持ちました……」うんぬんと言葉を並べたけれど、伝わっているのだろうか?
自分の仕事を説明するとき、「『ゴルフ』ってどう見られているのだろう?」と考えてしまう。接待スポーツ、贅沢スポーツ……ゴルフを‟生業”とする私ではあるが、なぜか周りの目を気にし、マイナスのイメージを持たれることを考えてしまう。特に今回のように医療・福祉関係の仕事をしている方々には縁遠いかもしれない……でも、お医者さんにはゴルフ好きが多いけれど……などどうでもいいことを考える。
リハビリテーションとは何か? そこからスタート
新入生の皆さんの趣味を聞くと、「ゴルフが趣味」という人が3人いて、嬉しくなって名前の横にチェック☑した。
私が自己紹介をしているとき、面接時にお会いした先生が、横でニコニコしておっしゃった。
「ああ! ゴルフの人ね」。間違ってはいない。私は、ゴルフが好きだ。そして、ゴルフを企画元に、ゴルファーに向けて雑誌をつくっている。でも、ゴルフを知らない方々のなかに入ると、「ゴルフの人」となるのだ。
こうして私は、女子大生になっただけではなく、ゴルファーの代弁者となり、今まで以上に「ゴルフ」と向き合うことになっていく。
さて、1年前の春はまだ、新型コロナウイルスの影響で、オンデマンド、オンライン授業が多かった。オンラインできちんと学べるのか、先生や同期との交流はできるのか、やっぱり直接会えないのはなんだか寂しいなあ……と思っていたのは事実。
しかし、仕事との両立は思いのほか大変だった。スケジュール調整も、規則正しい生活管理も。「早めに必要単位は取ったほうがいい」という先生方のアドバイスもあり、月曜日以外は毎日授業を入れたこともある。
だから、授業を受ける時間を選べるオンデマンド授業、場所を選べるオンライン授業が私を助けてくれた面はある。オンラインだからこそ、毎回レポートを書くことが必要だった。書くことは日々の仕事でもあるので苦にならない。でも、ついつい先送りしてしまう自分がいて、そういえば、1度目の女子大生時代も同じだったなあなんて、30年前を思い出したりもした。
ここで皆さん。「リハビリテーション」について、どのようなイメージをお持ちだろうか?
まったく経験がない方にとっては、ケガや病気をしたとき、症状が治った後に、体が元通り動くよう、専門家の指導のもと運動などを行うことだと考えるかもしれない。
私が、昨年の春期前半に履修した授業は、「視覚障害学特論」「健康障害学特論」「運動障害学特論」「統計学」である。その他、必修科目として「リハビリテーション方法論基礎Ⅰ」「リハビリテーション研究基礎論」「リハビリテーション概説」。
必修科目にある「リハビリテーション概説」は、さまざまなリハビリテーションの領域を、それぞれ簡潔に紹介していくものだが、一口にリハビリテーションと言っても、幅広い領域があることを認識する。障害ごとのリハビリはもちろん、高齢者に関すること、職業リハ、地域リハ……。
「リハビリテーション」という言葉の意味は広い。「Rehabilitation」は、「re(再び)」と「habilis(適した、ふさわしい)」から成り立っている。
リハビリテーションは哲学だ。人の心身の健康はもちろん、社会的存在としての権利や名誉、人生の復活のため、先人に学び、多角的な視点を持ち、人と人をつなぐ。
そのため、各人が自分の役割を考え行動すること。私の学びは、「リハビリテーションとは何か」という問いを、真摯に考えることから始まった――。