今のドライバーはロフトだけでは選べない?
GD 伊澤ショックがきっかけで、プロが70グラム台から60グラム台にシフトしたとして、アマチュアが50グラム台にシフトするようになったきっかけは何だと思いますか? プロが60グラムならアマチュアは一段下げて50グラムという見方もできますが。
長谷部 「ブリヂストン」の”サイエンスアイ”という測定器を使った店内フィッティングがGOLF5をはじめとして普及したことでしょう。ヘッドスピードが上がる、上がらないが如実にわかるようになり、軽いシャフトを振って見たらヘッドスピードが上がるし、結果も良いってことになれば、お客さんも50グラム台を選ぶようになります。自分に合うクラブをショップと相談しながら選ぶようになりました。
GD メーカーもいろんなスペックを持つと、売れるスペックのものをたくさん作って、売れないものはちょっと数量落としたりしますよね。そうすると、9.5度のSを中心に作っていたときがあって、今は10.5度のSを作っている?
長谷部 10数年前のメインスペックは9.5度のS、10.5度のSRですね。この2つをメインにして売っていましたが、そのうち、10.5度のSの需要が高まり、モデルチェンジごとに9.5度のSの販売実績が減り、10.5度のSが逆転したことはあります。でも、それはモデルチェンジとか、毎年徐々に変化した結果だと思います。10.5度のSは売れるのに、9.5度のSは売れ残ると在庫リスクも考えて、最終的には9.5度は受注生産しかやりません、ということになります。
GD そういうことか。
長谷部 市場からのフィードバックです。メーカーが意図して主導したことはないですね。
GD 自然にじわじわとそういう流れの中で売れるスペック、売れないスペックが淘汰されていった結果、メーカーが中心となるスペックを9.5度にするか、10.5度にするかを決めていく。その大きな要因がショップでの店内試打?
長谷部 それでも10.5度のSを使いたくない人は一部いるわけですよね。俺は8.5度だという人も。でも、そういった人に衝撃を与えたのが「テーラーメイド」の打ち出し角17度、スピン量1700回転だったと思うんです。もともと「プロギア」が謳っていた打ち出し角13度、14度でスピン量2000回転の話を、もう1回、「テーラーメイド」がプロツアーを使って言うわけですよ。そのときダスティン・ジョンソンが10.5度を使って飛ばしているということが広まって、「あれ?」ってみんな思うわけです。ロフトに対する考え方が凝り固まっていた一部の上級者とかハードヒッターに対してインパクトを与えたと思います。
もちろん、打ち方も違うし、一概に比較はできないんですけど、寝たロフトでも重心設計によって吹き上がらない。 しかも適正な弾道で飛んでいるというのがわかると、あなたは10.5度ですねって、積極的におすすめできるようになるので、さらにハイロフトが加速したと思います。
GD ロフトが増えたのは、ヘッドの設計が影響しているんじゃないですか? 高打ち出し、低スピンは、ずっと言われていることであって、ヘッドの進化とシャフトの進化によって現実化してきているわけじゃないですか?
長谷部 ひとつは低重心設計によって打ち出し角を上げ、ドロップを防ぐためにロフトが寝るようになった。さらに浅重心になったことでロフトが寝ても打球が吹き上がらなくなったというのが重心設計のトレンドになっていましたが、今はストレッチ形状の大慣性モーメントが設計の主流になりつつあるので、10.5度のロフトのままで大丈夫かと言ったら、大丈夫ではないんです。”MAX系の大慣性モーメントドライバー”では、スピンが増えて飛ばないという声もありますね。
ヘッドを後方に膨らませたストレッチ形状は、重心が深く、低い設計になっているため、球が比較的上がりやすい。10.5度だと上がり過ぎることもある
GD そうなると、打ってみてどういう球が出るかってことですよね。
長谷部 ロフトだけでは選べないってことです。同じ10.5度でも、『G430』の低スピンモデルLSTと普通のモデルでは出球が全然違うので比較はできません。『G430』のMAXを使いたいという人が、試打をしたら10.5度よりも9度のほうが良いということになれば、9度を選ぶほうが正解でしょう。
GD それって難しいな。10.5度の 50グラム台のSシャフトと言ったって、それを基準に打ち比べてもダメっていうこと?
長谷部 ダメではないんですけど、出発点にしかならない。このモデルの10.5度がダメだったからと言って、そのモデル全体がダメっていう結論に導いてしまうのはちょっと早計かなと思います。クラブと自分のパフォーマンスをきっちり合うまでフィッティングをやったところで選ぶべきで、同じ10.5度でも違うメーカーで比べると、設計意図も違えば、当然違ったパフォーマンスになるので、スペックで取捨選択するのはちょっと難しい時代になっているのかもしれないですね。
GD アイアンは表示番手がおかしなことになっているし、ドライバーは表示ロフトではわからなくなっている。クラブはやさしくなっているのに、選ぶのが難しくなっていますね。
長谷部 『パラダイム Aiスモーク トリプルダイヤモンド』の10.5度と、『G430 10K MAX』の10.5度を比べていいのかって話になるので、例えばMAXはMAX同士で比較するほうがいいよねってことになります。 同じ10.5度のSだから、闇雲に同じ土俵にあげていいかっていうとちょっと違う。
GD これまでのスペックに対する考え方を、我々ゴルファーも変えなきゃダメですね。
長谷部 このモデルの9.5度のSはよかったけど、そのモデルがチェンジしたら、同じ9.5度が合うかというと、それは約束できない。メーカーは設計のコンセプトを1~2年で変えすぎだし、種類が増えすぎているから、そこはゴルファー泣かせだなと思いますね。練習場でのメーカー試打会や店内試打でマイドライバーと比較検討が重要になります。
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