秀憲は小学生時代、試合に出ては圧倒的な差をつけて優勝を手に収めていた。しかし小学6年生のとある試合で今までに体験したことのない強烈な違和感に襲われた。それは自分の体の感覚が狂い、イメージどおりのスウィングができなくなった。やがてその違和感が恐怖に変わり、秀憲のゴルフ人生のターニングポイントとなるイップスとの闘いの日々の始まりだった。秀憲がイップスと向き合うなかで辿り着いた想いに迫った。
自分のゴルフが音を立てて崩れていった
「あれ……、全然思い通りに動かない……」
今まで自由自在にコントロールできていた体が言うことを聞かない。自分の体が別の物のように感じた。クラブを振り上げることはできても、その後の切り返しからフォロースルーに至るまでの体の感覚がまったくなかった。
「おかしい……、何をやってもイメージ通りにいかない……」
これまで天文学的な球数を費やし、誰よりも練習量をこなしてきたからこそ身につけた、数々の技術が上手く噛み合わなかった。
この違和感を覚えたのは小学校を卒業して間もない頃の全国大会だった。秀憲は腰の怪我の影響で1カ月ばかりゴルフから遠ざかっていた。そんなブランクのなか、優勝争いを繰り広げていた。1打毎の結果で順位が目まぐるしく変わるレベルの高い舞台は慣れていたし、そのヒリヒリする緊張感がとても楽しかった。だがこの試合では楽しむどころか恐怖心が芽生えていた。
「なんでいつもと違う方向に打球が飛んでいくんだよ……」
打った瞬間、右方向へ球が抜けるミスだと思ったら逆につかまった。イメージと実際の結果に矛盾が生じる場面が、この試合で多く出ていた。秀憲が過去に積み上げた経験からは体験したことのない現象が重なり恐怖心へと変化した。解決策がないまま試合は進み、次第に自分の技術に対して自信がなくなっていった。やがて体が硬直し、クラブを構えることも難しい状態に陥った。
「ボールがどこに行くか分からない恐怖が勝って、試合の独特な緊張感や優勝争いのプレッシャーを楽しめずに追い込まれていきました」と当時の心境を秀憲は振り返った。
そしてあの時の試合の違和感は、秀憲が長きに渡り闘うことになる“イップス“の始まりだった。