秀憲は小学生時代、試合に出ては圧倒的な差をつけて優勝を手に収めていた。しかし小学6年生のとある試合で今までに体験したことのない強烈な違和感に襲われた。それは自分の体の感覚が狂い、イメージどおりのスウィングができなくなった。やがてその違和感が恐怖に変わり、秀憲のゴルフ人生のターニングポイントとなるイップスとの闘いの日々の始まりだった。秀憲がイップスと向き合うなかで辿り着いた想いに迫った。

「イップスになってよかった」

中学に入学した時にはイップスを治す方法を探す日々が始まった。「あの違和感を対処できなかったことは、技術的に下手だからだと思った」と言う。絶対に同世代の誰よりも練習量をこなしている自負があったが、さらに積み重ねることで払拭できると信じて一心不乱にクラブを振り続けた。

「量をこなすことと同時に質を高めることが大事だと感覚的に分かりましたが、当時の中学生の僕には具体的な何かを導くのは難しかったです」。試行錯誤の幅を広げることを頭では理解していた。
しかし体とクラブを自在に操作することが難しい状況のなかで、対処法を編み出すことは容易ではなかった。

その恐怖心と闘いながらも「試合に出場してなんとかスコアを作って、勝つことはできていました」と話しながらも、「それでも思うような内容ではありませんでした」。日々、打開策を模索している間にもイップスは秀憲の体をさらに蝕んでいった……。

ゴルフのスウィングのみならず、ティーイングラウンドに立っているだけで、体が震えやがて全身から力が抜けてしまい、その場で崩れ落ちてしまうこともあった。さらに日常生活にも影響が及んだ。「電車やバスの密閉された空間や環境の変化についていくのが難しくなりました」とイップスになる前には平気だったことが、難しくなってしまった。

イップスはゴルフ以外の日常生活にまで影響を及ぼした

それでも秀憲は今の自分にできることを考えて取り組んだ。「イップスになり始めてからの6年間はとりあえずやれることを続けました」。ふとしたタイミングで「もしかしたら治るかもしれないと思うターニングポイントが出てきました。でも対処療法に過ぎなくて根本的な解決には至りませんでした」と言う。

さらに「今まで量や質を考えてゴルフに対して真剣に取り組んでいたので、まったく練習をやらない期間を設けてみました」とあえて今までやってきた練習を辞めた。「練習をやっていないから失敗してもしょうがない」とメンタル的な部分で一時的に解放されたが、それでもイップスの克服には繋がらなかった。

中学から今日に至るまで、秀憲がイップスと向き合う中で辿り着いた境地があった。量と質を高めることをやり続けても難しいのであれば、イップスは乗り越えるのではなく付き合っていくモノと捉えた。

そして「今はイップスになってよかったと思っています」。自分がゴルフを指導する立場になり、絶望的な場所から脱け出す方法を心身ともに取り組み続けてきたからこそ、他人が抱えるゴルフの悩みに人一倍寄り添い教えられる感覚が養えた。

イップスはなった人にしかわからない感覚がある。だからこそ秀憲は人一倍寄り添える

「イップスのおかげでゴルフの悩みをゴルフだけで考えるのではなく、さらに色んな角度から見ることを学べました」と秀憲は話す。

例えば食事や睡眠、普段の姿勢、歩き方など自分の体のことに、より一層気を配るようになった。食べた物や体温を毎日欠かすことなく記録し、その日の自分の体調と照らし合わせ分析をした。他にも人間の体の構造を勉強し、筋肉の動きや骨の正しい位置を把握することで、ゴルフの動きを細かく分解して考えられるようになった。

この積み重ねの甲斐があって「イップスの最悪の状態を100としたら、今は30くらいまで緩和することができました」と明かし、続けて「イップスに限らずゴルフのスウィングの好不調、打球結果などに必ず理由があることを、肌感覚で知ることができた」と現在の指導での支えになっていると言う。

秀憲自身、まだ完全に克服しているわけではないが、確実に少しずつ前へ進み脱出の出口へ近づいていた。イップスと付き合う中で苦しみもがきながら、手に入れた経験のおかげで、ゴルフに対する捉え方が広がっていった。

プロからアマチュアまで幅広く指導にあたる中でイップスに悩む生徒もいた。同じ苦しみを味わったからこそ分かる感覚を共有し、二人三脚で糸口へ導いている。秀憲のゴルフ人生においてイップスは、なくてはならない転換点だった。

【プロフィール】
伊澤秀憲(いざわひでのり)/1991年6月生まれ。神奈川県出身。叔父伊澤利光の父であり、祖父の利夫氏に2歳からゴルフの英才教育をうけながら、ジュニア時代は同世代の松山英樹、石川遼らとしのぎを削ってきた。YOUTUBEチャンネル「アンダーパーゴルフ倶楽部」にてショートゲームを中心とした動画を配信中!

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