1999年ノースカロライナ州パインハーストNo.2でおこなわれた全米オープンでフィル・ミケルソン、タイガー・ウッズ、ビジェイ・シンの最強トリオを抑え、42歳のペイン・スチュワートが優勝した。全米オープン2勝目、メジャー3勝目、人生最高の瞬間を謳歌したわずか4カ月後、彼は帰らぬ人となった。ニッカボッカにハンチング、ゴルフ界でもっともスタイリッシュだったスチュワートが最後の全米オープンで見せた魂のガッツポーズはいまでも人々の記憶に深く刻まれている。
1999年全米オープンでの有名なペイン・スチュワートのガッツポーズ。会場は今年と同じパインハーストNo.2だ
5メートルのパーパットを沈めた瞬間スチュワートは右手を斜め上に突き上げ不格好だが魂のこもったガッツポーズを繰り出した。
ミケルソンに1打差、タイガーとシンに2打差の勝利に「決して諦めなかった。自分を信じる力を与えてくれた神に感謝しなければならない」と感激をあらわにした。
18番のティーショットはフェアウェイを外れた。
「2回続けてミスをするのだけは避けたいと思ったので無理せず寄せワンでパーを狙うつもりだった」
3打目のアプローチは「もう少し寄せたかった」が5メートルのパーパットは練習ラウンドで何度か打った馴染みのあるラインだった。「カップの左内側」と読み「頭を動かさないようにして打ったボールがカップ手前50センチで右に曲がって吸い込まれた」。その瞬間我を忘れた。
前日妻のトレイシーさんから「パットで頭が動いている」と指摘された。そのアドバイスに従い最終日の前夜は遅くまで頭を動かさないことを意識して練習した。
「妻のお陰の優勝！」
エリート街道を歩んだイメージが強いスチュワートだが駆け出しの頃はアジアサーキットで腕を磨いた。トレーシーさんとの出会いも転戦先のオーストラリアだった。彼女の兄がスチュワートのキャディを務め応援のために訪れたトレーシーさんにスチュワートが一目惚れし遠距離恋愛の末結ばれた。
苦労人だけに「自分がゴルフで成功したからといって人より優れているなんて思ったことは一度もない。人間に優劣なんてない。ただ僕は幸運にも結果を出せただけ」と語っていた。
また87年のペンヒルクラシックで優勝したときには前年に他界した最愛の父との「絆を示したかった」と賞金全額をフロリダの病院に寄付している。
残念ながら99年の全米オープン優勝後彼に会うことはなかった。
「僕はおしゃべり好きなんだよ」という彼は私がアメリカに取材に行くと気さくに話をし笑いかけて
くれた。
同年10月、多くの人に愛されたスチュワートは最終戦のツアー選手権（テキサス開催）に出場するため飛行機で移動中に墜落事故で亡くなった。
最終戦を前に彼が獲得した賞金は200万ドル（約3億円）を超え99年シーズンの賞金ランクは7位だった。
父とジャック・ニクラスに憧れ「ゴルフが初恋だった」といったスチュワートはもっとも星条旗が似合う全米の象徴的な存在だ。
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