用語をおさらい!
Q.「慣性モーメント」って?
A. 物体の“回りにくさ”を表す数値
慣性モーメント( MOI=Moment of Inertia )とは、物体の「回りにくさ」を示すデータ。この数値が大きいほど芯を外した場合にヘッドがブレにくいため、ミスヒット時に球が曲がりにくく方向性が安定する。「10K」ヘッドは、ヘッドの左右と上下の数値を足して1万g・㎠を超えたモデルのことを指す
【ヘッド上下・左右】
ヘッド単体での慣性モーメント。ヘッドの重心を軸に、それぞれ上下・左右方向へのブレにくさを示す
【ネック軸回り】
ネック軸、つまりシャフト軸に対する回転しにくさを示し、大きいほどフェースの開閉に大きな力が必要
【クラブ全体】
シャフトやグリップまで含めたクラブ全体の動かしにくさを示す。これが大きいほど振りにくくなる
「上下MOI」は残された最後の“未開拓ゾーン”だった
数値で進化を表現できる最後のアピールポイント
今年のドライバー市場では、ピンの「G430 MAX 10K」とテーラーメイド「Qi10 MAX」がヘッドの慣性モーメント上下左右合計1万g・㎠超えという「10K」を打ち出し話題をさらった。近年のドライバーの開発競争は、「AI」や「カーボンフェース」など各社さまざまな独自路線で進められてきているなか、突然大手外ブラ2社が「10K」という共通のキーワードを打ち出してきたのはなぜなのだろうか? 月刊ゴルフダイジェストでもおなじみのクラブデザイナー、松尾好員さんに聞いたところ、「“数値”でドライバーの性能を打ち出していくうえで、ここが最後のアピールポイントだからだろう」という。
「ドライバーはルールによる規制があらゆるところにかかっていて、数値でわかりやすく“すごい”アピールできる点がほとんど残っていないんです。2003年にフェースの反発係数(COR)が0・830以下に規制されるとともに、ヘッドサイズは460㏄が上限となり、もはやそれらはすべて達成されています。クラブの長さの上限も22年に48インチから46インチに短くなりました(※)。ヘッドの慣性モーメントも左右5900g・㎠という規制があり、ここは07年ごろにはもう上限に達しています。しかし実は、ヘッド上下方向の慣性モーメントはまだ規制がなく、データとしてもあまり注目されてこなかった“未開拓ゾーン”だったんです。各メーカーがそこにフォーカスして開発を進めた結果4200g・㎠を超えるところまで達し、左右と合計して1万=10Kという数値のインパクトを打ち出せるようになった、ということだと思います」
※ローカルルールとして規定
実は「ナイキ サスクワッチ SUMO2」はすでにほぼ「10K」だった!
ヘッド左右MOI●5937g・㎠
ヘッド上下MOI●3761g・㎠
上下と左右を合計すると9698g・㎠!
ネック軸回りMOI●10102g・㎠
2007~2008年には、ナイキとキャロウェイが四角いヘッドを発売し「慣性モーメントの極大化」を打ち出した。松尾氏の計測によれば、ナイキ「サスクワッチ SUMO2 5900」は上下慣性モーメントも非常に大きく、実は「ほぼ10K」に達していた。
確かに近年のドライバーは、カーボンフェースやAI設計などテクノロジーを前面に押し出す一方、数値によって「こんなにすごい」とアピールするモデルは少なくなっていた。ルールでがんじがらめのなか、残された数少ない数値上の進化アピールポイントがヘッド上下慣性モーメントであり、「10K」だったというわけだ。その意味では「10K」ドライバーとは、ヘッド上下方向の慣性モーメントが大きいことが最大の特徴といえるだろう。実際、「G430 MAX 10K」のデータをスタンダードモデルの「G430 MAX」と比べてみると、上下の慣性モーメントが200g・㎠、約5%ほど大きくなっている。“飛ばし方”を考えるうえでも、ここがカギになりそうだ。
===
※続きは月刊ゴルフダイジェスト7月号「ドライバー10K 時代の飛ばし方」またはMyゴルフダイジェストにて掲載中!
構成・文/鈴木康介
写真/大澤進二、三木崇徳