やれることはすべて試す
「何がダメだったんだろう……」
小学生最後の全国大会で襲われた強烈な違和感の正体を突き止めるために毎日考えていた。あのとき、自分の体が思い通りに動かずに終わってしまった奇妙な体験は忘れたくても忘れられなかった。
そんな不安をよそに陽は昇り、また今日もいつもと同じように中学校で朝の球打ちをこなす。
しかし物心ついたときから欠かさず行い、体に刻まれた無意識レベルの技だったはずのベアグラウンドや砂場からの、アプローチショットを打つことが難しくなっていた。クラブを構えていつものようにボールにめがけてクラブを振り降ろそうとした瞬間にそれは起こった。
「ここから先にいかない……」
クラブを体全体で引き、トップを作りボール目掛けて落とそうとした瞬間にインパクトの寸前で体が硬直し動きが止まってしまった。
それは今まで積み上げてきた自分のスウィングが崩れた瞬間だった。あの全国大会のミスは偶然ではなく、秀憲の体に刻まれたイップスの証明になってしまった。大会の違和感とその後の練習での体の異変がイップスと認識した秀憲はひとつの決断をした。
「これはゴルフをイチから見直すしかないな……」
これまで培ってきた自分のゴルフが壊れてしまった今、新しくゴルフを創り上げることにした。体に染みついた動きや自分が持っていた概念を捨て、ゼロからひとつずつ積み上げて新しい自分に生まれ変わろうと決めた。
まずはグリップから見直した。両手の力加減を少しずつコントロールしながら素振りを繰り返してみる。しっくりくるバランスが見つかるとボールを打ってみた。
「もしかしたらこの感覚を続ければ治るかも!」
しかしそんなに甘くはなかった。“あの時の恐怖心“が邪魔をして体が硬直してしまう。
グリップがダメなら脚の体重配分を変えた。両脚にかかる体重のバランスを調整しながら、少しでも素早く回転できるポイントを探した。スタンスの幅も指一本単位で変えながら、ボールを違和感なく打ちに行ける位置を模索した。
「お願いだからこれで終わってくれ……」
ひとつひとつの微調整にかける時間は莫大なものだった。だから何通りも試した末に見つかった方法がハマったときは、祈るような気持ちでその型を練習し続けた。
だがその願いは儚く、一瞬で崩れ落ちることがほとんどだった。ようやく光を掴んだと思った矢先にスルリと消えていく感覚を何度も秀憲は体験していた。それほどまでにイップスは根深く秀憲の肉体に刻み込まれゴルフを狂わせていた。