自分のリズムに合うクラブ探し
しかしこの何回も訪れる一瞬のターニングポイントの積み重ねは秀憲のイップスを少しずつ軽減していたのも事実だった。
「対処療法的な感じで根本の解決にはならなくても僅かながらに症状は良くなっているんです」とこれまでの試行錯誤の数々が決して無駄ではなかったと話す。
そして「最悪だったときを100だとすると今は30あたりまでは落ち着きました。最近またひとつ新しいことを見つけたんです」と声のトーンを弾ませて明かしてくれた。
それは“道具のバランスを変えること“にイップス脱出の糸口があると秀憲は考えている。
「僕のスウィングの特徴を分析していくとヘッドを軽く、その分シャフトを硬くするとリズムが合うんです」
秀憲のスウィングは瞬発的なキレ味が特徴で、この速いスウィングスピードを活かすためには「スウィングのリズムが速いタイプは全体的に軽く、硬いクラブと、逆にゆったりとスウィングするタイプは重たいクラブとそれぞれ相性がいいんです」と言う。何通りもの組み合わせを試して辿り着いた秀憲に最適なクラブバランスはヘッド重量が軽く、シャフトが硬いクラブだった。
自分の瞬発的なスウィングと相性の良いクラブを見つけることで少しずつイップスが軽減した
さらに「自分の場合はイップスを軽減させるためにクラブ選びをしていましたが、同時に日本人選手が海外の選手に勝つための選択肢としてアリだと感じました」。
それぞれのスウィングタイプと相性の良い道具選びをすることで、自分の体をフルに活かしエネルギーを満遍なくボールに伝えられる方法のひとつと考えている。外国人選手と比べて先天的に劣るフィジカルの差を埋めるためには、このクラブバランスが重要だと肌感覚で感じていた。
ショットの新しい感覚に加えて、パッティングもイップス脱出の糸口があった。
それはパターの長さだった。
中学一年のときに短尺から中尺に変えたことで、「マニュアル感が強い短尺よりも、オートマチックな中尺は安心感がありました」。
イップスにより一つ一つの動きのズレに対して体が反応してしまい、余計なアジャストをしなければならなかった。
しかし中尺に変更したことで腹部にグリップエンドを当ててストロークするとクラブの挙動が安定した。シンプルな振り子運動になったことで、ズレが少なくなり精神的にも秀憲に安心感をもたらした。
この経験から中学二年のときに中尺から長尺を手にした。
「中尺のときは両手の間を少し空けてはいましたが、短尺のときのようなオーソドックスなグリップでした。長尺にしてから長さだけでなく握り方を変えたことでだいぶ、イップスが落ち着いてきました」
長尺の独特なグリップと長さを掛け合わせた結果、よりストロークの安定感が増し、必要最低限の力加減でボールにエネルギーを伝えることができた。短尺から徐々に長さを伸ばしていったことが功を奏した。この思い切った変更は秀憲のパッティングの新しい型を築くきっかけとなり、現在も長尺をベースに様々な方法を試行錯誤している。
パッティングは思い切ってパターの長さを変更したことで新しい型が創られていた
秀憲はこれまで積み上げてきた感覚を捨てて、イップスを軽減させるためにゼロからゴルフを見直してきた。その一つに道具の構造から見直すことが、自分の新しいゴルフの型を創り上げる柱となっていた。
【プロフィール】
伊澤秀憲(いざわひでのり)/1991年6月生まれ。神奈川県出身。叔父伊澤利光の父であり、祖父の利夫氏に2歳からゴルフの英才教育をうけながら、ジュニア時代は同世代の松山英樹、石川遼らとしのぎを削ってきた。YOUTUBEチャンネル「アンダーパーゴルフ倶楽部」にてショートゲームを中心とした動画を配信中!
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