中学1年からイップスと闘い続けていた秀憲は、日々の練習のなかで試行錯誤していた。しかし自分の体に合う感覚と出合うことはなく時間が過ぎていった。20歳の頃にゴルフ以外とは別の角度からイップス脱出の糸口を見出そうと考えた。そして自分の体が置かれている状態を細かく分析すると、日常生活で体に力が入ってしまう姿勢で過ごしていたことが分かった。秀憲に当時から現在に至るまでの肉体とイップスの経過を紐解いてもらった。
自然と力む姿勢がイップスのきっかけだった
「しっくりこないな……」
あの時の感覚が戻ってこない。球を自由自在に操りショット、アプローチ、パッティングでギャラリーの視線を奪っていたあの時の自分はいなかった。小学生最後の全国大会で体の異変が起こり、イップスとの長き闘いが始まっていた。
すべてを白紙に戻し、その時々で自分に合う可能性があるものを模索して、新しいゴルフの型を創ると決めた。
しかし自分の意思とは裏腹に制御の効かない肉体に合う感覚を見つけ出すことは容易ではなかった。強いて言えば中学1年の時に、パターの長さを伸ばし短尺から中尺へ変更したことでパッティングの不安は軽減された。その感触をさらに高めるために長尺パターを手にとった結果、秀憲のパッティングの新しいベースになった。
それ以外のショットやアプローチでキッカケを掴むことはまるでなかった。幼少の頃から祖父の元で叩き込まれたゴルフの猛練習のおかげで、体の感覚やクラブの挙動に対するセンサーは人一倍優れていたが、その類稀な長所をイップスが消してしまった。些細な感覚のズレやクラブのエラーに体が引っ張られ、ボールのインパクト直前で全身が硬直し、動きがピタリと止まってしまう。
「例えるなら稼動している電化製品の電源をいきなり落とした時の感覚」と秀憲はイップスの最悪な状況を振り返った。今までのようにボールをスムーズに打ちたいという一心で様々なことを試したものの、「どれも自分の体に馴染むものがありませんでした」と、むしろやればやるほど自分の心地いい感覚が失われていくことがほとんどだった。
日々、自分と向き合う中で一向に光が見えてこなかった。気づけば7年もの月日が経っていた。