強烈なインテンショナルフックに心が動いた
「メジャー4連勝を飾りました!!」
黒いキャップを被り赤色のシャツに袖を通し、少しばかり空気を含んで膨らんだ黒いパンツを履いたスーパースターが、またひとつゴルフの歴史の1ページを刻んだ瞬間だった。それは2000年に全米オープン、全英オープン、全米プロとメジャー大会を3連勝。そして21世紀に入り、2001年のマスターズを優勝し、前人未到のメジャー4連勝を果たした。
オーガスタに集まったパトロンは彼の一挙手一投足に熱視線を注いだ。カップにボールが吸い込まれ、雄叫びを上げればそれに呼応して地の底から突き上がる大歓声が巻き起こった。
数多くのゴルフファンが魅了され、忘れられないシーンだったのは間違いなかった。そしてその中にはもちろん小さなゴルファーの卵だって含まれる。
リーダーボードに目を通せば1人の日本人選手の名前が刻まれていた。その選手の甥っ子もヒーローを見るかのような眼差しを向け、偉業を成し遂げたスーパースターに憧れていた。
「初めて生で観たのは4歳か5歳くらいの時だったんですよね」
タイガー・ウッズがイベントで来日した時、秀憲は初めて目の前で見た。幼き少年は心の底から「かっこいい」という純粋な気持ちでいっぱいになった。タイガーの立ち居振る舞いだけでも魅かれるほどに、秀憲にとって紛れのない特別な存在だった。
さらに秀憲に与えた衝撃はまだ続いた。
「小さい子は前のほうで見ていいからね。こっちに来たらよく見えるよ」
イベントスタッフに促され最前列で待機していた。この後、タイガーがクラブを握りデモンストレーションを行ってくれるという、ファンにとってはこのうえない最高の舞台を見られる絶好の機会だった。
タイガーは代名詞のひとつである様々なショットを披露した。それはバリエーション豊かなスピンショットや球の高さ、曲がる方向や幅といったように自由自在にコントロールされた異次元のパフォーマンスだった。そして秀憲の目の前に広がった七色の球道は今でも鮮明に残っている。
「1番衝撃的だったのはインテンショナルフックの球筋なんですよね」と振り返る。
タイガーが遠くにいるカメラマンを指差し、「あそこからフックさせます」と言い、鋭い打球を放った。それは地面を這うような低弾道な打球かと思えば、途中からホップし、今度は宙に向かって伸び上がりながらフックしていった。
「幼いながらも、これはやばいなと感じたんですよね。そしてこれがプロゴルファーなんだなって」と言い、幼き秀憲がさらにゴルフの面白さを知るには十分なひと時だった。そしてより一層、スピンショットへの探求心が加速していった。
当時はまだ体が小さく、力も無かったこともあり満足のいくスピンを掛けることは難しかった。しかし「ただ真っ直ぐ打つだけではなく、いろんな方向から曲げたり、時には高さを出したり逆に低く鋭い球を打ち分けるタイガーの姿はかっこよかったですから」と、タイガーのテクニックに魅せられたことで自分も同じように打ちたい気持ちが強くなった。