「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

日米のドライバーの差はテスターの差?

GD 今日は「重心」についてはお聞きしますが、クラブヘッドの重心というのは、重心深度、重心距離、重心高さの3つを押さえておけばいいですか?

長谷部 ドライバーの重心に関しては、重心深度と重心高さの2つを主に見ておけばいいと思います。重心距離に関して言えば、シャフト軸を中心とした距離のことを言います。フェース面上の重心距離っていう人も一部いましたが、今はシャフト軸からヘッド内部の重心までの距離をいうことが多いですね。

重心アングルも指標として使っていたこともあるんですけど、最近は重心アングルが大きいから小さいからということで、ヘッドの開閉に対しての影響があまり評価できなくなってきているので、最近は言わなくなってきていると思います。

GD 確かに重心角は言わなくなっています。重心角が大きいほうがつかまりが良いようなことを言っていましたが、今は重心深度に変わった?

長谷部 ボールのつかまりに関しては、重心深度とフェースプログレッション。その辺が関係してくるので、フェースプログレッションが小さく、オフセットがついてくるようなものになればなるほど重心角は大きくなるので、あまりそこで表記しなくても、別の仕様で書かれるということですよね。

GD ゴルフクラブの進化の中で、最初に注目されたのは重心高さ。「低重心」が注目されました。

長谷部 フェース面上での議論がありましたね。地面から20ミリなのか25ミリなのかみたいな議論がありました。パーシモンの時代に低重心の話がまったくなかったのは、そもそも異素材のソールプレートを使っていたため、重心が圧倒的に低く、フェースの中央部分にあったのが昔のウッドの設計でした。

GD メタルになって一気に重心がヒール寄りの高いところには移動していったんですか?

長谷部 そうです。メタルウッドになってアイアンのようにフェース面上でいうヒールの上めに重心が移動したことで、多くの人がチーピンに悩んだり、球が上がらない、もしくはスピンが入らないという弾道の違いに戸惑いました。

ステンレスからチタンに変わったときにはもっと劇的な違いがあって、素材が軽くなったことでヘッド体積が大きくなる。大きくなった途端に重心が深くなるという話が出てくるんですよ。

メタルウッドの時は重心の深さは議論にまでなりませんでしたが、チタンに変わったこと、その他カーボンなどの素材が入ってくることになって、重心が徐々に議論されるようになった気がします。

「キャロウェイ」がホーゼルのないタイプのメタルヘッドを出たときに、重心の高さとか議論されるようになったと思います。ホーゼル部分には20グラムぐらいの重量があるので、それがなくなったことによって、重心に大きな影響を与えました。

GD 『ビッグバーサメタル』ですね。あのドライバーは円盤みたいな形をしていたから、ヘッドのほぼ真ん中あたりに重心があったのかな? と思いますが。

長谷部 ステンレスの時代はフェース面の重量が非常に多かったので、形状のど真ん中に重心が来ることはほとんどなく、フェース面寄りに重心はあったと思います。

メタルからチタンになって余剰重量が生まれるようになって、その余剰重量をヘッドの後ろに配置する、タングステンを入れるみたいな形になった時に、ヘッドの中央に近いところまで深くなってきたことはあるでしょう。

GD 重心を意識するようになったのは、チタンによってヘッドが大きくなったことと、余剰重量が作れるようになった副産物みたいなものですか?

長谷部 そうですね。チタンでなければここまで重心を考えた設計を意識することはなかったのかなと思います。ステンレスでは作れる体積に限界があったのと、ドライバーで言えばヘッドの重さを205グラムから195グラムの範囲で作らなければいけないという制限がある中で、素材がステンレスだともう限界がきていて、打球面の強度を保ちながらヘッドを大きくすることに限界があったので、300㏄のステンレスヘッドはなかったはず。

大きくても250㏄ぐらいだったのでチタンにならないとそれ以上の体積ができなかったことからも、重心という発想はあったとしても開発の自由度はなかった。結果として、この形だとこうなったという事実を見ていただけですよね。

GD その時代のほうが、飛ぶクラブ、上がるクラブ、つかまるクラブ、ヘッドの性能差は非常にあったように思います。

長谷部 自由度がなかったぶん、ボールを上げたければシャローフェースにする。ハードヒット向けにディープフェースにする。そういうことがシンプルに決まっていたので、 フェースの形とか大きさを決めることによって、ヘッド体積上の形も大体決まっていたし、まだパーシモンの名残りを持っている人の感性があったので、そういった形状が好まれていました。

今でこそあまり言わなくなってしまったんですけど、洋梨型が上級者とかハードヒットが好む形って言われて、形状として浅重心になっていたんだと思います。

GD 最初に低重心化が言われた時、今考えてみれば重心を深くすると低くならないじゃないですか。低くするために浅くしなきゃいけない。それによって低スピン化がはじまって、それがいつしか深重心が良いと言われるようになりました。その切り換えはなんだったんですかね?

2008年の高反発ルール(SLEルール)の時に、日本のメーカーは従来通りの低重心にこだわって、外ブラの重心は総じて60パーセント後半とか高重心の方向に向かったという見方をする人がいます。その時点で深重心という考えがあって、ちょうどその時言われたのが、「弾道の安定」でした。

「ナイキ」が四角いヘッドを出してきたり、いろんなところで弾道の安定ということを聞きました。その時は今ほど重心深度とは言われていなかったように思いますが、そこが転換期なのかなと?

長谷部 自分が国内メーカーから外ブラに変わったタイミングでもあるんですが、大きな違いを感じたのはテスターも含めてアメリカ人の打ち方と日本人の打ち方が圧倒的に違うことです。

日本人は「ドライバーをアッパースウィングで打ちなさい」というスウィング理論の中で綺麗なアッパースウィングを目指して打つ人が多かったため、割とインパクトロフトも寝てくる傾向にありました。そういった人は重心の深いものを使ってしまうとスピンがかかってしまうし、そういったテスターの多い日本のメーカーにしてみれば、低重心を攻めていくわけですね。

ところがアメリカのテスターって結構、力でロフトを立てて打ってくるんです。スティンガーショットみたいな感じなんですけど、プロ以外の人も平気でやるんですよ、力任せに。だからテスターの違いとかっていうのもあるのかなと思います。今でこそヘッドの開閉を抑えてロフトを維持しながらシャローに打つ理論が語らえるようになって、日本のゴルファーのスウィングも大型化や深重心に慣れつつあるように思います。

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