「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

重心深度の目標値を2018年の『G400 MAX』が達成していた

GD 2008年の高反発ルール施行からしばらくドライバーは混迷期があって、新しいステージに入ってきたのは、2016年のRSドライバーのギリギリだったと思います。そこからスピード化に入っていくわけですが、その間は機能調整のカチャカチャだったり、ウェイト調整だったり、フィッティングを重視した期間でした。

長谷部 ある一定のトレンドというものがなく、それぞれのメーカーが試行錯誤していた時期なので、名器と言われるものが出にくかった時期だったかもしれないし、フィッティングを謳うことでゴルファー任せにしていたところもあったとは思います。そういう意味で言うと「フェースの反発」と「低重心のロースピン」で飛ばす。この2つのポイントで進化はしたと思うんですよね。

GD 日本の市場で言うと、2010年の『初代グローレ』ブームがありました。あのクラブがなんで受けたのかと言ったら、意図的なのか奇跡なのかわかりませんが、誰もが打てるヘッドでした。プロも打てる、アマチュアも打てる。そこに一番影響したのが重心だと思うんですよ。

その重心位置が多くのゴルファーにマッチした。「神の重心を宿ったクラブ」って当時紹介したんですが、重心に対してのアピールは薄かったように思います。

長谷部 あの当時のクラブ作りは、まだ形状を美しく作るとか、『グローレ』なんかも日本人好みに作っているクラブなので、形に関してはかなりこだわって作っているものだったし、そういったものを意識していたりしたものなので、日本人の感性に基づく美しい形をベースとしたもの作りがあの時はされていたんですよ。

チタンだから余剰重量があるので、多少の重心調整はできると思いますが、『グローレ』は形が大切っていうスタンスだったと思います。

GD 『グローレ』に関して言うと、計算し尽くされてできあがったのか? 偶然的にできたのか? どっちだと思いますか。

長谷部 「テーラーメイド」の場合は、ある程度おいしい重心位置がわかっていて作っています。だから形がこうなったとしても、ある程度の重量、肉厚調整でここの位置に近づけようとする目標値は見えていると思います。

GD 「テーラーメイド」に限らず各社、ここがおいしい重心位置だよねみたいな感覚って持っているものなんですか?

長谷部 それはもうウェイト調整のできるヘッドを過去に作っているので、大体このぐらいの位置に置いとけば日本人はハマる、アメリカ人は喜ぶみたいな、そういう位置は「キャロウェイ」も「テーラーメイド」も持っています。

GD 日本のメーカーもそうですか?

長谷部 日本のメーカーは日本のメーカーで独自にやっているので、そこら辺は定かではないんですけど、モデルチェンジをしていく中でガラリと重心を変えてなければ持っていると思います。もしそれが変わっているとしたら、定まってないという言い方にはなるかもしれません。

GD 日本のメーカーのクラブはちょっと外ブラと違っていて、フェースのヒール側がちょっと膨らんでいるものがあります。それは昔ながらの短い重心距離で球をつかまえて飛ばそうっていう感覚によるものなんでしょうか。

長谷部 それはあると思います。重心距離の長いのがアメリカメーカーの特徴で、重心距離が短いのが日本メーカーの特徴っていうのは一時期明確になっていたことがあるんですけど、その歴史を日本のメーカーはちゃんと積んできているということでしょう。

GD 重心が大きなターニングポイントになったのは、2018年のピンゴルフ『G400 MAX』が出たことによって、現在のMAXブームに繋がっていくと思うんですね。その前に発売されたレギュラーモデルの『G400』も、そこそこの評価を得て評判になっていました。

今、改めて数値を見てみると『G400』も 『G400 MAX』も重心深度で言ったら45ミリ超えを達成しています。意外とこの45ミリっていうのが、クラブ全体を見るとひとつ境界線なのかなっていう感じはするんですけど、どうですか?

長谷部 境界線という言い方よりも、もうある一定の目標を作ってしまったという言い方ができると思います。それまでの過去のデータを振り返って見ていた中でも、「キャロウェイ」、「テーラーメイド」で45ミリのものは存在しない。

今年のモデルのMAXで重心深度45ミリがいくつか見られますね。過去のモデルで言うと、やっぱり深くても42、43ミリがいいところってなると、『G400』は、ちょっと頭抜けているんですよね。
これをどういう評価の中で生まれてきたのかっていうのはすごく興味深いんですけど、独自路線をこれで作ってしまったと言ってもいいぐらい、ちょっと境界線というよりは頭抜けた目標値を作ってしまったということになります。

2018年に登場した『G400 MAX』。重心深度は45ミリ超えの47ミリ。この数値は現行の『G430』に相当する深重心。レギュラーモデルの『G400』よりも4ミリヘッドをストレッチさせ、重心を2ミリ深くしている

GD 感覚的にこれはいいよ、いいよっていう声があったのを、数値化してみたら45ミリだったっていうことですか?

長谷部 45ミリを達成すべくストレッチ形状にしたのかもしれないです。

GD 45ミリが先にあったのか、45ミリは後からなのか?

長谷部 それはわかりません。ただストレッチしたこの形状じゃないと45ミリの重心深度は達成できないことはどのメーカーもわかっていて、「ピン」は躊躇なくストレッチをした。 どっちもあるんじゃないですかね。

形状をストレッチしながら引き延ばしながら、重心位置は45ミリだった。47ミリまでいけそうだっていうことにたぶんなったんじゃないですかね。

GD 『G400』がそこそこ評判になって、そのあと「遅れた大本命」って言われているのが『G400 MAX』だったんですよ。 でもすでに『G400』で45ミリの重心の深さを達成していて、さらに2ミリ深くするために4ミリ多くストレッチさせたということですよね。

長谷部 ストレッチさせることによって重心が深くなることはみんなわかってはいるけれども、形として違和感がないと言われるところで収めているのか、思い切ってここまでしてしまったのか。ちょっと5、6年前の感覚に戻るのは難しいんですけど、その当時は思い切ったことをやっているんだと思います。他のメーカーにないですからね。

GD 数値的に『G400 MAX』は、今主流になっている ドライバーが目指すところの数値を、もうこの時点で達成していたと。

長谷部 達成していますね。あとは慣性モーメントとかの数値を高めるために部分的な重量配分を変えていけば、今の「10K」と言われるモデルの数値に近づけることができると思うので、重心の高さと距離と、フェース面上の重心の高さに関しては、ほぼ完成形に近いんじゃないかなっていうのが見えてきますよね。

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