この5年間で「ピン」がドライバーの基準を作り変えている?
GD クラブのスペックを読む解くひとつの目安とすると、重心深度は45ミリとすると、重心距離はどれぐらいですか?
長谷部 『G400 MAX』は、重心距離も45ミリを超えています。
GD それは今のクラブと比べても長い方ですよね?
長谷部 慣性モーメントを大きくするためには、長くても全然オッケーなわけで、今でいうと「キャロウェイ」、「テーラーメイド」はそこまで重心距離を長くはしていないですね。39から41ミリなので、「ピン」は頭抜けています。重心距離がちょっと長くて、重心深度がちょっと深い、これが「ピン」の独自路線で他社が追随できないところなんですよね。
GD 行き過ぎている感じですか?
長谷部 他社にとって契約プロがいたり、これまでいろんなノウハウを蓄積してきた中で、ここは行き過ぎだろうっていうところを、今「ピン」は『G400』でやってしまっている。でも、これでユーザーをつかんでいけば新しい市場になってしまう。他メーカーにとっては恐ろしいとことで、「ピン」がそれを着々とやっているような気がします。
GD ほぼ5年前とスペックが変わっていないということは、この5年間で確実に定着させつつあると。
長谷部 あると思います。ましては今、ピン『G430』が人気上位を占めていることで、打ってよかった、買ってよかった、そういった人たちが増えているわけですから。
GD そうなるとドライバーの進化は、ヘッドはある程度のところまで行き着いていて、そこに小さなアレンジを加えている感じですか?でもこれってヘッドの話であってクラブとして機能させていくためには、シャフトとのマッチングが重要ですよね?
長谷部 長さであったりバランスであったり、あとはフレックスですよね。
GD ヘッドに関しては劇的な進化を終え、仕上げの段階に入っている?
長谷部 今の『G430』と『G400 MAX』があまり大きな数値の差がないとしたら、今度の10Kはどれぐらいか変わっているんだろうと言っても、慣性モーメントの数値が大きくなっているだけで、重心の深さがあまり変わっていないこともあり得るし、ヘッド機能として人が体感できる違いまであるのか? ほぼほぼ微調整の段階に入っているような気がします。
GD 人間の感性が急激に変化するのは難しいでしょう。そうなると、よほどのことがなければ重心深度は今がゴールで、重心距離に関しても、長いのが好きなのか、短いのが好きなのかとか、重心高さに関してもスウィングの入射角に対してどうなのか。そういった探し方になってきますね。
長谷部 そうですね。本当に心地よい振り感を求めれば、重心距離は短いほうが振りやすいはずですし、ゆっくりボーンと飛ばすイメージで安定性を求めるんだったら重心距離は長くても打てるはずなので、もうゴルファーのスウィングタイプとプレイスタイルで傾向が分かれてくると思います。
GD 今ツアーで活躍してる人は、どんどん若くなっています。若くなっているということは、最近のクラブでゴルフを覚えたことになります。今後MAX系のやさしいクラブでゴルフを覚えてきた人たちがツアーで活躍するようになると、プロが使うクラブとアマチュアを使うクラブが、より近くなっていくような気がします。
長谷部 もうヘッド重量が5グラム違うとか、その程度の差でしかくなって、同じものを使うようになるんじゃないですかね。
GD そうすると、メーカーのクラブ作りも、そっちの方向にどんどん進んでいくわけですよね。
長谷部 その中で取りこぼしてしまうニッチな層があるとすれば、シャフトが短く、ヘッドの小さいドライバーぐらいは作るでしょう。でも、その程度で終わっちゃうんじゃないですかね。
GD ストレッチ形状にしても、2024年が最高であって人間の感性を考えるとこれ以上行ったら、ちょっと気持ち悪いよねってところに来ていると思うんですよ。そうなると新素材が出てこない限り、重心の位置はだんだん固定され、クラブの機能そのものも固定されていくように感じます。
長谷部 「キャロウェイ」がヘッドサイズ違い、機能違いのドライバーで出し続けているのは、まだ模索中なのかもしれません。「キャロウェイ」は契約選手が多いから、プロの要望に合わせるためにベストなものを追求したら、こういう数になってしまったってことが考えられます。
今年の「Aiスモーク」からフェース側にあった「ジェイルブレーク(2本の柱)」をやめたのも、余剰重量をそこに使いたくないというのは明らかだと思うので、重量を後方に持っていきたいんだろうなって感じます。
GD ストレッチ形状で言うと「キャロウェイ」が一番強いように感じますが、今のような強めのストレッチにしなくても大丈夫?
長谷部 大丈夫でしょうし、それをどのバランスで見るかってことですよね。だから、『♢♢♢』ように重量がフェース寄りにあるものから、重心を深くしているものまで、いろんなものを出しているのも、試行錯誤の中のひとつです。
一概には言えないですけど、メーカーのポリシーとして、ひとつのヘッドでたくさんの人に使わせたいと考えるブランドもあれば、1人1人のパフォーマンスに合わせることを大切にするブランドもあると思うので、それはメーカーの考え方の違いはあると思います。
GD ドライバーの最適な重心位置がほぼほぼ見えてきている可能性はある?
長谷部 メーカーによって考え方が違うだけで、それぞれのメーカーはベストはここだろうと言うのはもう見えていると思います。あとは、それが市場で受けるか受けないかで、これから何をしたらどうなるかっていうところは想像がついているでしょう。
だから、マーケティング上、何を中心に次の商品を作ったらいいかというマーケティングストーリーのところまで組み込んで作っているはずなので、新素材、フェース素材を変える、あとは重心位置を合わせてくみたいなマーケティングロジックみたいなところにどんどん話が進んでいくと思います。
つまりヘッドとしての劇的な変化を期待するのではなくて、どの説明やイメージが自分好みであるか? という判断をしてもらうということでしょうか。
GD 一番重要なのは重心深度で、上手い下手で言えば、上手い人ほど浅いものを好み、下手な人ほど深いものが良くて、ヘッドスピードの速い人ほど浅いほうが良くて、ヘッドスピードが遅い人ほど深いほうが良い。
そういう前提があったとしても、重心を動かす幅の範囲は狭まっていくのかなと?
長谷部 狭まってきますよね。一番重要なのは重心深度で45ミリが行き過ぎの限界だとすると、おそらく 40ミリから45ミリの間で全部が調整でてしまう。ヘッドスピードが速い人も、上手い人も下手な人も納得できるもの作りになると思うので、いきなり35ミリの重心の深さのものは出てこないでしょう。
出てきたとしてもいわゆるミニドライバーのような特殊なクラブになるので、メーカーとしてはこのあたりの3ミリ、4ミリの幅で調整が入っているんだと思います。