今年のプレジデンツカップは、米国選抜の10大会連続、13回目の勝利で幕を閉じました。世界ランク上位が勢揃いした米国選抜ですから順当な結果。
ただ、初日のフォーボールで0–5と1ポイントも取れなかった世界選抜が、2日目のフォーサムでは、松山英樹、イム・ソンジェ組の大会タイ記録となる7&6の圧勝を含め、すべてのマッチで勝利し5–0の大逆襲。これまでフォーサムは米国選抜の独壇場。米国の一方的な展開が予想されたなか、新たな歴史の扉が開かれた感さえあります。
この大会で感じたのが、松山くんの”普通ならざるすごさ”。2日目のフォーサムでの歴史的な勝利はもちろん、逆転で連敗した3日目を越えて最終日は世界一のシェフラーを向こうに回しての堂々とした戦いぶり。
試合後、バイスキャプテンのマル(丸山茂樹)と連絡を取ったのですが、この立ち直りの早さについて「いや本当に英樹はすごいね! シェフラーとの戦いは最高だったよ」と。世界で戦ってきた人が現場で見た感想なので説得力があります。
3日目、やはりイム・ソンジェと組んだ松山くんでしたが、午前の中盤からイムに助けられる場面が増えます。後半に入り10番で松山くんが長めのバーディパットを決め、マッチもタイに戻って
“さあこれから!”となった次のホールで2mくらいから3パットしてしまい、勝ち越すチャンスで逆に1ダウンに。
そのときの松山くんのリアクションは今まで見たことがないもので、信じ難いショックを受けている様子が伝わってきました。一度、高みを極めた選手にとって、こうしたミスは大きな傷となり、ときにイップスを誘発したり病んで弱くなるケースも少なくありません。
ところが最終日、シェフラーを相手に堂々たる戦いぶり。最終日全体を振り返り「最近ないくらいショットがよかった。いつ以来だろうというくらいよかった」と言っていました。
もう一人すごい選手を紹介すると、やはり世界選抜のトム・キムです。
2日目はメンバーから外れたトム・キムですが、落ち込むこともなく、「自分が何をすべきか」を考え行動します。それは2日目、誰よりも早く1番ホールに立ち、ギャラリーを盛り上げ、前座として空気を温めておくことだと。実際、初日を終えた記者会見では、ファンに向かって「もっと応援してほしい」と語り、ギャラリー席を煽あおって大会を盛り上げたのもトム・キムでした。
初日、0–5で敗れた世界選抜ですが、「帰りのバスはみんなが歌い騒いで最高だった」とアン・ビョンフン。その中心にいたのもトム・キム。2日目の快進撃の裏には、こんなドラマもあったのです。
さて、米国選抜で印象的だったのがキーガン・ブラッドリー。優勝は彼の勝利で決まりましたが、優勝が決まりそうな6番目に据えたのは、キャプテン、ジム・フューリックの粋な計らいでしょう。
「プレーヤーとして出られるのは最後かもしれない。でも幸せです」
ブラッドリーは来年のライダーカップの米国チームのキャプテン。本当の涙はそこで勝ったときに見られるのかもしれません。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年10月22日号「さとうの目」より