ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、全英オープンで圧勝したスコッティ・シェフラーについて語ってもらった。
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全英オープンで圧勝したスコッティ・シェフラー

メジャー最終戦となる全英オープンは、2位に4打差をつけたスコッティ・シェフラーの圧勝で幕を閉じました。22、24年のマスターズ、そして今年の全米プロに続き、これでキャリアグランドスラムに早くも王手をかけました。

世界ランク1位の全英オープン制覇は、00、05、06 年のタイガー・ウッズ以来2人目の快挙。メジャー4勝までに要した1197日は、タイガーが要した日数とまったく一緒。タイガーの領域に入ってきたと感じる人も多いと思います。ボクもメディアの末席に身を置く人間ですから、そうした記録や偉業に目を奪われがち。しかし、それをシェフラーにぶつけても、「だから何?」という表情が返ってくるだけの気がします。そしてそれがシェフラーのゴルフの強さの正体でもあると思うのです。

実は大会前、会見でのシェフラーのある発言が注目されました。メディアはまた、これに勝つとグランドスラムに王手だ、などという偉業や成績について質問をぶつけました。ところが、そうしたことに興味のないシェフラーは、「結果は自分が意識するものではない」としたうえで、こんな発言をしています。

「もちろん勝つことは素晴らしい、成功のために努力して臨むわけだから嬉しくないわけがない。でも、それが心の底から嬉しいと喜べるなんてせいぜい2分くらいで、そう長くは続かない。もちろんゴルフは大好きだし、負けたら悔しいし、それに対しての努力も惜しまない。ただ、勝ったからといって心が満たされるものではないし、またゼロに戻って次へ次へと続けていくのがゴルフでしょう」

頂点を極めた者の達観というか、とても率直で人間味のある発言に聞こえました「今週の72ホールはもっともメンタル的に上手くいった」と振り返りましたが、今回は特に72ホール通して感情が安定していました。怒りやフラストレーションを見せる場面もほぼありませんでした。最終日、唯一ピンチだったのは8番で、ティーショットをバンカーに入れ、グリーンを狙うもアゴに当たり再びバンカー。そこから脱出して4オン2パットのダボとしますが、何事もなかったような表情でプレー。

「(キャディの)テッドがすかさず良い声がけをしてくれてさっと次に進むことができた」

実は負けず嫌いのシェフラー、本来は気性も激しく上手くいかないと感情に出ることもあります。それをコントロールして挑んでいました。ウィニングパットを決めても表情を変えなかったシェフラーですが、唯一表情を緩めたのが奥さんとまな息子の姿が見えた瞬間。「彼女はいつも私が一番最初に喜びを分かち合いたい人」。

彼の価値基準は、「心地よく過ごせるかどうか」であって、一緒に心地よい時間を共有する家族やコーチ、スタッフなどの仲間が喜ぶ姿が、一番の喜びのようです。地元テキサスで少年時代に出会ったランディ・スミスとの関係を見ても深い絆を感じます。

シェフラーのスウィングは独特ですから、直したがる指導者も多かったはず。しかしその才能を花開かせたのはスミスであり、2人の絆あってこそのもの優勝会見では、「歴史上の名選手と同じトロフィに名前が刻まれて、さすがに今回の優勝の喜びは2分以上嬉しかったでしょう?」との質問が。シェフラーは、内心うんざりしていたでしょうが真摯に長々と答えていました。そもそもそうしたことに興味がなく「1位になるかどうかは神様が決めること」という考え方というのか宗教観というのか、価値観の基準が多くのアスリートとは違いますし、そうした生き方に憧れを抱く人も少なくないはずです。

フィル・ミケルソンのキャディを約25年務めた、ボーンズの愛称で知られるジム・マッカイが中継で興味深いことを言っていました。「自分の人生の中で、タイガーにこれほど近い存在の選手を見ることになるなんて思ってもいなかった」。闘志をむき出しにし、子どもなら誰もが憧れたタイガーとタイプは違いますが、シェフラーもスーパースターであることは間違いありません。英語で言う「boring golf」。この言葉はよく選手たちが口にし、メジャーのようなタフなセッティングのとき、まさに目指すゴルフです。視聴者やファンがもしかしたら退屈だと感じるかもしれないけど、勝つためにはそういうつまらないゴルフが一番強い。

タイガーだって隙のない堅実なゴルフでしたし、今年キャリアグランドスラムを達成したマキロイがシェフラーのゴルフに憧れ、リスペクトする理由がそこにあると思います。

◆参考ポイント=自分が戻ることのできる大切な基本や練習を見つけたい

画像: 独自の練習で世界一のスウィングを磨き上げたシェフラー

独自の練習で世界一のスウィングを磨き上げたシェフラー

シェフラーには今も手放さない大切な練習器具があります。それはゴムでできたグリップの形をした練習器具で、それで握りを確認している。皆さんに、この練習器具を使えというのではなく、自分にとって戻ることのできる大切な基本、そんな練習を見つけたらいかがでしょう、という提案です。たとえば素振りならお金はかかりませんし、パット練習なら狭い場所でもできます。どんなに忙しくてもできる練習。ゴルフに特効薬はありません。自分が見つけた基本を繰り返すことのできる能力は、ゴルフ上達のための唯一の能力かもしれません。

PHOTO/Tadashi Anezaki

※週刊ゴルフダイジェスト2025年8月12日号「さとうの目」より

スコッティー・シェフラー スプーン後方連続写真

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