星野 陸也
欧州でも若い選手が台頭している。「でもベテランの方もたくさんいます。飛距離は僕で平均という感じ。技術的にはティーショットがすごく上手いイメージ。コースの距離が長くて意外と狭い。だからドライバーの精度も高いんです」。
“常に挑戦者たれ”
欧州ツアー参戦2シーズン目の序盤、星野に“その日”は来た。「昨シーズンは3位が1回、そして今シーズンすぐオーストラリアで優勝逃しの2位が2回。LIV(ゴルフ)に行ったけどPGAで活躍していたホアキン・ニーマン、PGA期待の若手ミンウー・リー、この2人と優勝を争えたのも大きな自信になりました。常に上位にいけば優勝できる可能性はあるという思いはより強くなりました」
その思いの通り、星野は2月のカタールマスターズで欧州ツアー日本勢4人目の優勝を飾った。 欧州1年目は模索の日々だった。
「1年通して海外に行くのが初めて。コースセッティングも全然違いますし、日本なら中断になるような風のなかでも試合が行われる。芝質で打ち方も変えないといけない。そんななか、日本と似た芝のコースなど少しでもチャンスのあるときになるべく成績を出し、難しいコースは翌年の試合で攻略するという思いで戦っていました」。
今、自分にできることをしっかりやる、という戦略で少しずつ取り組んできた結果が優勝だった。「久常(涼)は見ていて順応性がすごいと思っていました。でも僕の1年目は学ぶ年になりましたね。50ヤードくらい戻される“爆風”が吹いたりして、ドライバーで240ヤードくらいしか飛ばない。最初はびっくりしました。気づいたらいつも予選カットライン上。選手の実力が詰まっているんです。でもだからこそ予選通過すれば上位にいけるチャンスは大きい」。
プロ入りしてすぐ、星野は「僕、夏場は痩せやすいんです。だからまず、しっかり食べられるように頑張っていきたい」と体力面の不安を口にしていたが、あれから7年、すっかりたくましくなった。
「欧州で最初の半年は体力的にも辛かったですよ。賞金王ならロレックスシリーズ以外ほぼ出られのでスケジュールも組みやすいんですけど、(日本の賞金ランク2位の)僕は出られるカテゴリーが低い。特に欧州本土までウェイティングで行くのはなかなかの賭けです(笑)。だから毎回、出場人数、自分が今何番目かなどの情報をもらって、めちゃくちゃ計算していました。出られるか出られないかのなかでの試合に向けた調整と、メンタルの維持は難しかった」。
欧州でもオタク炸裂!
英語が話せる薬丸龍一キャディとは、海外参戦を見越してタッグを組んできた。鉛が剥がれるのが嫌でアイアンカバーを1本置きくらいに付けているが、「欧州ツアーでは有名になっていて、コースで落としても『君のでしょ』って、皆が拾ってきてくれるんですよ(笑)」
22年、ゴルフの聖地で行われた全英オープンでも、星野はウェイティング3番目でも迷わず飛んだ。「ギリギリ入れるかどうかでしたけど、セントアンドリュースには、お金がかかっても練習ラウンドだけになっても、行くだけでも価値があると思いました」。
この挑戦する姿勢が、星野にいい流れを呼び込んできた。
「僕は1シーズン目、出場ランクが29番目で出場できる試合が少なかったんですが、初戦のドバイで6位になり出場ランクが十何番目に上がった。でもリランキングが先延ばしされて……それでも結局、確定する最後の試合、ドイツ(BMWインターナショナルオープン)で3位に入ったので、一気に出場ランクが6番目に上がったんです。その後はスケジュールが組みやすくなりました。つなぎ、つなぎでここまで来ました。大事なところで上手くいった感じです」。
上手くいったというのは、成長にほかならない。「風や芝に対しての対応力がつきましたし、メンタル面もです。僕は結構突き詰めるタイプなんですけど、海外ではゴルフ以外でも大変なことが多いので、いろんな意味で許せるようになったというか、心がちょっと広くなったというか。ゴルフ以外でも、いろいろな感覚が増えましたし」。
技術面はここ数年の準備が功を奏した。「ちょうどコロナ禍にスウィング改造を始めた。スウィングもクラブも進化していくなかで、自分の打ち方が少し古かったので思い切って。それがある程度ハマって日本で賞金ランク2位になれた。そこからまた海外でも対応できるスウィング、トレーニングに変えたんです。欧州参戦後もマイナーチェンジを繰り返した。海外は地面が硬くて芝の1本1本が太く抵抗が大きいのでクラブの入れ方も変えなければいけない。しっかり試合で再現できるように練習して、昨年の後半戦くらいから落ち着いてきました」
コーチがいない星野。スウィング改造は一人で行う。それも楽しみのひとつだという。
「欧州の選手やコーチにも『僕のスウィングどう? 』と聞いたり、選手を見たりして、確率がいいスウィングを取り入れる。たとえば今まで背筋を使っていたのをお腹のほうを使って打ったりとか、自分のなかで何パターンか打法があって、芝質によってそれを使い分けたりするんです。これがまた面白いし、上手くいくともっと面白い。何より自分のゴルフを楽しむということが一番ですから」。
ヨーロッパ参戦は、仮にシードが取れていなかったとしても、かけがえのない宝になったという。
「最初は怖いという感覚もありましたけど、今は楽しい。世界中のコースを回れるし、いろんな国の人や文化とも触れ合えますから」。
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星野陸也のこだわりや今後の展望をインタビューした内容は2024年5月21日号の「週刊ゴルフダイジェスト」またはMyゴルフダイジェストにて掲載中!
PHOTO/Hiroaki Arihara、Hiroyuki Okazawa