朝、練習場へいってみた。全面バミューダグラスである。ティより前方の林のネットまでニクラスは3バウンドで届いている。ワトソンは1バウンド目、私なら届きませぬ。私の飛距離は240ヤードくらい。日本のプロの中では並みである。
T・ワトソンクラスで平均270ヤードくらいと思う。日本より多くの報道陣が来ている。マスターズは世界で一番写真撮影制約の多いトーナメントである。日本ならカメラマンはロープの中に入れる。ここでは唯一人として入れぬ。
グリーンまわりには人の垣根が三重にはできている。大詰めの3ホールは、五重、六重になる。劇的なシーンを撮るには、場所とり合戦をしなければならぬ。ということは、カメラマンはマラソンランナーになって、コースの中を走れということである。
プレスは朝9時より夕方6時まで歩きずめである。東京スポーツ宮坂、手塚両氏はサンドイッチとコーラという質素な昼食を7番ティ裏のピクニックエリア(ギャラリープラザ)で、とっていたが、「足が引きつって仕方がない」とこぼしていた。カメラ持つ腕があがらぬともいう。私も疲れのせいか、昨夜38度5分の熱を出し、本誌カメラマン吉川丈雄に迷惑をかけた。
「カメラマンは、体力ですからね」と、彼はいっていたが、なるほどと思う。
われらダイジェストグループはオーガスタコースより車で5分ほどのところにある、ユダヤ系弁護士の自宅を借りている。一週間1400ドルの契約。5部屋あるしょうしゃな300坪ほどの家である。玄関前の庭にはニ抱えほどの松が三本並んで立っている。高さ20メートルはあろう。
オーガスタ市には日本料理店京都がある。ベニハナという鉄板焼きの店がある。客数は毎晩多い。昼間サンドイッチにコーラで歩きまわっているので、夜は肉。また肉である。そしてシャワーを浴びてバタリンコ。朝起きるのがつらい。
今朝、ジョニー・ミラー夫人に会った。ツアーに同行する女房殿の意見を拝聴したかった。しかし、何分にも私は九州なまり英語、彼女は宗教心あついブリティッシュ・イングリッシュ。当然難しい話に関する意見疎通が困難である。
私が2番グリーン横にいた時おもしろいことがあった。豪州のG・ノーマンが2メートルのパーパットを狙っている。下りのスライスライン構えに入った時、ボトンという音がした。後続組のボールがガードバンカーまできている。ノーマンは構えをほどかず、打ったが外れてしまった。ノーマン、2番フェアウェイをにらみつけている。打ったのは豪州の先輩プロ、D・グラハム。彼は素知らぬ振りでとことこ歩いてくる。3番を歩いていた時もノーマンはグラハムをにらみつけていたが、グラハム知らぬ顔。グラハムのキャディ、顔をすくめてノーマン見ていた。
お互いこのくらいは度胸ないとこの世界やっていけぬ。
トレビノのキャディは小錦のお父さんのような黒人男である。13インチのバッグを人形抱くような感じでかついでいる。
プロショップの前で、ただ1人の女性キャディにインタビューした。ジョージ・アーチャーのキャディは彼の娘である。170センチ、65キロぐらいのプリンプリンの胸とお尻をゆすって歩くヤンキー娘。顔形は父親が父親だけに並の上というところ。
専属キャディ、みな翌日のピンの位置、確認している。近年マスターズも専属キャディを多く連れてきており、地元黒人キャディ受難の時という。日本は多くの試合、専属キャディを認めていない。日本ではそれでよい。私が専属キャディつけたら、金のない私、破産してしまう。結構、アメリカのプロは高い金をキャディに払っている。強い人間ほど金稼ぐ。それで専属キャディ使えば有利である。
ゴルフに平等の条件などあるわけない。風はきままに吹くし、スタート時間も違う。それに遅いスタートではグリーンが傷んでいて、スパイク跡が目立つものである。短い速いグリーンほど目立ってくる。
G・ホルバーグが風の測定ミスをした。15番バーディで4アンダー、16番ショートホール、私は15番左サイドギャラリースタンド・プレスゾーンの最上段にいたので、風が回っているのは知っていた。15番は右からのフォロー、16番は右からの向かい風に変わっている。ティショット、池の中、ドロップした第3打、グリーンオーバー、トリプルボギー。同じ組のP・スチュアートもショートさせている。昼、夜の温度差の高いところは乱気流が発生しやすい。
6組前のM・ライが15番でトラブルに見舞われ、多少遅れた。このトラブルがなければ、トーナメントリーダーはホルバーグと思えば、勝負に運というものが多分にあるのかもしれぬ。オーガスタは4時すぎると風が回り出す。月例予選やると1/3は80いくであろう。それほど難しい。青木功はその中で1アンダーで回っている。
※本文中の表現は執筆年代、執筆された状況、および著者を尊重し、当時のまま掲載しています。
※1985年5月1日号 週刊ゴルフダイジェスト「坂田信弘のマスターズゲリラ日記」より