5月の関西オープンで国内ツアー初優勝を飾った幡地隆寛選手。それに先立つ2月のアジアンツアー、ニュージーランドオープンでプロ初優勝し、今、乗っている選手の一人でしょう。
87回目を数える日本で一番古いトーナメントの関西オープン、103回目のニュージーランドオープンと、その名前が永遠に残るであろう歴史ある大会に優勝するあたり、“持ってるな”という印象です。
大きな体と美しいスウィングから繰り出される圧倒的飛距離。無名時代から目立つ存在で、記憶に残る選手でした。
今、PGAツアーで戦う久常涼は、「ゴルフを始めたときから幡地さんに憧れた」と答え、今年のミズノオープンで放送席に呼ばれ好きなスウィングを聞かれたソン・ヨンハンも「幡地のリズム」と答えています。
また幡地くんは、ジェイ・チョイと仲がいいのですが、そのきっかけは宮城県で開催された東日本大震災の復興チャリティ。子どもたちにゴルフの楽しさを教えるイベントでしたが、当時、東北福祉大の学生だった幡地くんのスウィングを見たジェイが、「こいつスゲエ!」となって、以来、日本に来るたびに食事をしているのだそうです。
ともあれアーニー・エルスやレティーフ・グーセンのような、力強さとしなやかさを兼ね備えたスウィングを持つ日本人離れした大型選手。それがボクの幡地くんについての印象です。
しかし、大器と言われ皆の記憶に残りながらも、これまでは何か物足りなさを感じさせるところもありました。
東北福祉大4年生の15年、関東学生を制した後にプロ転向。そこからレギュラーツアー昇格までは3年を要し、さらに20-21シーズンで初シード。昨年、賞金ランク18位でJTカップに初出場。今年の活躍時にはすでに30歳になっていました。
幡地くんのポテンシャルを考えると、ようやくきた! という感じですね。データを見る限り、ジワジワと確実に前進していることは間違いありません。そこは彼のゴルフスタイルが大きく影響しているようです。
というのも幡地くんは、これまでコーチを付けたことがありません。壁にぶつかると選手は誰かに救いを求めがちですが、彼の場合、その観察力と吸収力で、自分で取捨選択して歩を進めてきたように感じます。
昨年のダンロップフェニックスで一緒に回ったブルックス・ケプカの“見たことのない打球”を自分なりに研究。悪かったリカバリー率、サンドセーブ率も、堀川未来夢ら仲間の技術を盗んで、着実に小技を磨いているようです。
幡地くんが「あれはボクの宝物です」と言った一打があります。
それは3打差の首位で迎えた、関西オープン最終日の18番のティーショット。前日にドライバーで右の林に打ち込み、アイアンで刻んでも逃げ切れる展開です。どちらかというとこれまでは消極的で守り型、慎重なタイプの幡地くんが、ドライバーを握りど真ん中に打っていったのです。
こういうところにも一皮剥け覚醒した幡地くんを感じますよね。当人も海外志向だけに、日本人離れしたスケールで世界に挑戦してほしいものです。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年7月23日号「さとうの目」より