リンクスの愛好家とは、武居振一氏。英国では300コース(うちリンクス100コース)を巡り、R&A会員で、JGAミュージアム参与でもある。
同氏が訪問したのは、1892年に設立された「ロイヤルウエストノーフォークGC」。
イングランドのブランカスター湾と塩性湿地帯に挟まれたコースは創設から100年間、ほとんどその形を変えていない。
つまりハシュケルやガッティボール時代から変わらぬシチュエーションで、ゴルフが楽しめるわけだ。それを可能にしているのは4ボール(ストロークプレー)禁止故だろう。
氏が同GCを知ったのは、英国のゴルフガイド『フォローイング・ザ・フェアウェイズ』。その一節に「全英オープン開催コース以外に伝統、歴史、まれなる特徴を醸し出すコースが2つある」との記述があり、そのうちの1つだった。
最大の特徴は、前述したように潮の干満により様相が一変することだ。満潮時には陸地と分断されて島になり、車では来場不可。フェアウェイまで潮が迫りコースが狭くなり、曲げない練達の技が必要になる。そうでなければボールがいくらあっても足りない。
同氏が今回で3度訪問したのも、満潮時のコース風景を見たかったからだという。
1回目は干潮時。2回目、そして結局、今回も七分くらい満ちた程度。干満の時間をより正確に計算して行かないと望む景色は見られないようだ。
もう1つの特徴は風。微風の時はコースに出ると、カモメの羽音やバッグの中でクラブがぶつかり合う音、船の帆がはためく音しか聞こえてこず、心地よい孤独感が味わえる。巨大なバンカー、美しい芝、速いグリーン、魔法のような場所とも。
しかし予期せぬ天候の急変が悪魔のコースへと変貌させる。
「晩秋にプレーした折、15番では太陽が輝いていましたが、17番になると雨が降り始め、18番では本格的な嵐。びしょ濡れになりながらビクトリア調のハウスに戻り、皆が笑って迎えてくれたとき、風速計は時速55マイルでした」(武居氏)
リンクスには自虐的、官能的喜びが確かに存在する。これがマニアにはたまらないという。同GCはフレンドリーなクラブで、伝統は必ずしも孤立を伴わないと武居氏。
次こそは満潮を狙い、機会を待つという。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年9月3日「バック9」より