「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

打ち比べてわかった! 前作『TSR2』とはまるで別モノ

GD 8月21日発売の月刊ゴルフダイジェスト10月号に掲載したD-1グランプリ。今年の最強ドライバーは『タイトリスト GT2』ということになりましたが、今回は改めて『GT2』を検証することにしました。

長谷部 D-1グランプリの現場でも、GT2、3、4を打ち比べさせてもらい改めて今日は『GT2』を打ちましたけど、非常に振りやすいというのを感じます。

今年は「10K」をはじめとする慣性モーメントの大きなドライバーのトレンドがありますが、それとは真逆の感じがしました。それがツアープロのスイッチがスムーズに行ったというところの1つの理由であることは間違いないでしょう。

操作性だったり、振りやすさを生む重心設計がされているなという気がしました。新素材のポリマー樹脂を使ってるということですけど、新たなフィーリングを感じさせるような打感、打音と言ったところも非常に上級者受けするチューニングがされていて、プロが違和感のない中で色々進化しているような気がしました。

GD 長谷部さんは『GT4』が勝つんじゃないかって予想していましたけど、結果は『GT2』でした。

長谷部 ヘッド体積の大きさとか形状とか微妙なところですが、重心が前にある『GT4』が結果的に強い球で飛んでくれるんじゃないかっていう予想を立てたんですけど、結果はもうちょっとやさしく安定感の高い『GT2』が勝ったということで、男子プロ、女子プロ、トップアマ、非常に打点の安定している人たちが打ったにも関わらず『GT2』が勝ったということは、精神的な安心感とともに、微妙なズレに対しても安定性が勝ったということでしたね。

GD 「GTシリーズ」の中で『GT2』が一番やさしい、寛容性の高い位置付けだとは思うんですけども、前作の『TSR2』と『GT2』を打ち比べてみると、その違いを感じるものがありましたか?

長谷部 非常に大きな違いを感じました。『TSR』は重心距離が長く、深いというデータがあるのですが、『GT2』と重心距離があまりにも違いすぎて、バランスが違うんじゃないかというぐらい。

自分には後継モデルとは思えない別シリーズのクラブに感じるぐらいの違いがあったので、『TSR』を使っていた人が『GT2』に持ち替えた時には、シンプルに振りやすいって感想を素直に思うんじゃないかなと思います。

GD 8月23日に発売が開始されて、試打されている人も多いかと思うんですけども、プロツアーの動きを見ると、前作の『TSR3』から『GT2』へ移行するプロもいるようです。

長谷部 今度の『GT2』は「TSRシリーズ」の時よりも許容範囲が広いというか、カバーするプレーヤーの範囲が広いのかなって勝手に思いました。YouTubeのGT試打動画を見ると、ロフト10度とか9度を打っているんですけど、ロフト11度が設定されているので、一般のアマチュアは11度でもいいのかな? と思います。

ロフトを無理せず選ぶことで、強い球も打てるし、安定感もあるのが『GT2』の特徴だと思うので、フィッティングの際に気をつけることはシャフトの好みぐらいで、 ロフト選びは非常に簡単に済むのかなという気がしました。

GD メーカーの発表だと、ポリマー素材をクラウンに被せてコンポジット構造になりました。今までフルチタンで通してきたタイトリストのドライバーがここに来てコンポジットに変わったというのは、低重心を狙ってきた構造の変化ですか。

長谷部 前作TSRの数字を見る限りでは、今回のGTではもうちょっと重心を低く、前重心にしたくなるのかなという数値になっています。そこの改善のためにクラウン部分の軽量化を進めて余剰重量を生み出したように見えます。

カーボンではなく、あえてポリマーの新しい新素材を使ったところも味噌で製造のしやすさを優先したように感じます。カーボンだと成型するのに非常に苦労するところがあるので、ポリマーだと割とその辺の自由度が高く、形状設計も安定し、かつ余剰重量を生かせる素材なのかなという気がします。

「GTシリーズ」はタイトリスト初のコンポジット構造を採用。クラウン部に新開発のシームレス構造の超軽量ポリマークラウンがかぶる

GD タイトリストのクラブは上級者が好むような綺麗な形状を特徴としていますが、それを保つためにポリマーを採用したということでいいですかね?

長谷部 そうですね、形状を大きくストレッチさせるとか、シャローにするということをせずに、低重心にするための余剰重量を生み出したっていうことだと思います。なので、圧倒的に低重心化が進んでいて、打球が強い、だからD-1グランプリにも勝ったみたいなところが言えるように思います。

GD 「テーラーメイド」、「キャロウェイ」、「ピン」がタイトリストのライバルメーカーになってくると思うんですけど、その中であえて重心深度を浅くして、慣性モーメントを小さくして操作性を良くしている。 時代の流れと逆行しているように見えます。

長谷部 そうですね。慣性モーメントが大きいほうがやさしいというロジックは、あくまでもヘッド単体でのオフセンターヒットの時の差が小さくなりますよ、バラツキが小さくなりますよ、という考え方の延長線上でみんなやっているだけの話で、クラブになった時のクラブ慣性モーメントというか、振りやすさっていうとこに関しては大きく進化してないというと思っています。

「10K」であったり、慣性モーメントの大きいことがマーケティング上のストーリーとして人気になってしまっていて、そこにみんながちょっと注目しているにすぎません。人間のスウィングがそんなに大きく変わっていない中で、微妙に少しずつやさしさを追加していったのがタイトリストだというように見えます。

GD D-1グランプリの現場では、重心が深いものが思ったより飛んでいかないような感じがあったじゃないですか。

その中であえて深重心にしてこなかったタイトリストが強さを発揮したように見えました。深重心化っていうのは、ある意味行き過ぎたところにまで行ったのかな? って見えたんですけど。

長谷部 そうですね、別の機会で『ピン G430 MAX』の話をしましたが、ある程度目標を作って彼らは独自の路線で来ているのでいいと思います。

ただ、そこにハマらない人たちもたくさんいるのも確かで二極化していると言っていいでしょう。中途半端な深重心、慣性モーメントの大きいモデルよりは、「タイトリスト」のような振りやすさであったり、あるいは一定の低重心化を保ちつつ、つかまりだとか深さというところを追求しているものがあってもいいのかなという気はしますね。

ですから、「ピン」とは全然交わらない「タイトリスト」があって、ゴルファーの選択肢が増えていくっていうことに関しては非常にいいのかな。かといって「タイトリスト」の進化は決して難しいほうに行ってなくて、今回の『GT』はやさしい方向にちゃんと進化しているんだと思います。

GD 「タイトリスト」のやさしい進化は、操作性を含めて他に何がありますか?

長谷部 今回は操作性だと自分は感じました。『TSR』より重心距離が短くなっていて、なおかつ低重心化で球が強くなっていると思うんですよね。

GD 「タイトリスト」の進化って、他のメーカーのクラブに比べて極端なことをしてこないじゃないですか。

長谷部 そうですね。ヘッド体積に関してはいち早く460㏄にも取り組んでいたし、けっしてチャレンジをしないメーカーではないと思うんですけど、その中で大切にしているのは、契約プロや地域にいるタイトリストモニターさんといった人たちの声をちゃんと聞いて、無理のない範囲で改善していく。

あくまでも提案型の新しい技術とか新しい設計を打ち出して、市場に問うというメーカーが「テーラーメイド」、「キャロウェイ」だとすると、それとは逆で、確実にお客様の声を聞きながら美味しいところをつかんでいるように見えます。

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